アカネイア&覚醒&if短編

□監視記録Sのお前へ
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*サイゾウ支援Sとカゲロウ支援ネタバレ(まだBまでしか見てないのでおかしいところあったらすみません)
S以前なのに結婚イベントっぽいものが入ります


 忍の朝は早い。
軍の中で誰よりも早く起き、監視なりなんなり任務をこなすのが忍というものだ。
だが、せっかく何もない日でもこうして早起きしてしまうのは、最近は避けたいと思っている。
寝たい、切実に。
いや、睡眠時間など俺には数時間で十分だし、時には夜通し監視と言うこともある。
俺は欲求的に眠りたいのではない。
ただ、こうして時間が空いたとき、余計なことを考えてしまうから、眠ってしまいたいのだ。あいにく、普段から睡眠時間の短い俺にはずっと寝台の上でだらけるなど、無理な話なのだがな。


 監視評価Sのお前へ


「サイゾーさん!おはようございます!」

食堂が空けば、俺はすぐに朝食をとりに行く。空いたばかりの食堂は、食堂係も休むため外に出る上、ほかに朝食をとりにくる奴はまだいない。
だから、俺は一人でさっさと作業的な食事を済ませる。…のだが。

「相変わらず早いんですね!」
「…カムイ、貴様もこのごろずいぶん早いではないか」
「いっ、いえ。私はもともと早起きなんですよ。最近は食堂に早く来てるだけです」

最近は、いやにカムイとの遭遇率が高い。それもそのはず、どうやらこいつは俺との遭遇を狙っているらしいからな。

「せっかくサイゾウさんと友達になったんですから朝食くらい付き合ってくださいよ。
サイゾウさん、お昼とか夜はあんまりみかけないですから」
「ふん、まぁ俺は飯を抜くこともざらだからな」
「え! だめですよ、忙しいのはわかりますけどちゃんと食べてくださいね」
「……はぁ。何か用事があれば呼び出せばいい。わざわざ早起きなどせんでも」
「だっだから私は早起きなんてしてないですよぅ。
それに、ご飯食べてる時だとサイゾウさんがマスク外してるから、なんだか新鮮でいいですよね!」
「っ……」

カムイよ、お前は優しいやつだ。
だがあまりそうやって俺を気にかけるな。
俺が、我慢できなくなるから――。

「…おい、俺はもう行くぞ」
「え、もっとゆっくりしてきましょうよ」
「すまんが、俺は午後から極秘任務にでる。
今から下準備をするのでな」
「あ、そうなんですね…どんな任務なのかは極秘なので聞けませんけど、あまり無茶しないでくださいね」

カムイがあっと言う間に笑顔を消して、不安げに言うものだから、俺はらしくもなく「善処する」と、そう答えた。


***


 その日の任務はカゲロウとは別行動の任務だった。
敵はかなり多かったが今回俺の目的は敵を倒すことではなくリョウマ様から頼まれた情報収集。
情報をつかみ次第、退散するつもりだった。
だが俺は――カムイに言われたことも忘れ、少しばかり強行手段に出ていた。
カゲロウが俺を止めてくれないこともあってか、俺はあまりに敵に近寄りすぎていた。
気が付いたときには戦闘が始まり、俺は命からがらマイキャッスルに帰ったのだった。

 とりあえずどこかで傷薬を拝借しなくては。逃げ切れたはいいが、ところどころ手裏剣が刺さった傷が痛む。
痛みなど大したことはないが、この出血量はあまりいい状態とは言えぬな、足元もなんとなくふらつく。
早くリョウマ様へ報告に行きたいが、この姿のままでは余計な心配をかけさせてしまう。

だが、傷は俺が思ったより深かったらしい。
だんだんと意識が朦朧としてきた。
ふいに、今朝無茶をするなと不安げに言ったカムイの顔が浮かび、いたたまれなくなる。
あいつにだけは、この姿を見せるわけにはいかない。

そう、思っているはずなのに、気が付けば俺はカムイのマイルームの前に立っていた。
たしかに、ここでなんとかできれば最善だ。
俺の部屋はマイキャッスルの奥のほうにある。そこにたどり着くまでに血痕を残したくはないし、第一たどり着けるか怪しくなってきた。
普段ここまでの傷を負わないせいか、自分の負傷をなめていた。
気の緩みだ、精進せねば。
マイルームからは人の気配がしない。
都合が良い、少し休んでから、部屋まで走り抜けるか。
壁に背を預けてほっと一息つく。
ああ、息苦しいな。マスクを下せば新鮮な空気と、自分の血の匂いが鼻腔をかすめる。
それと、かすかにカムイの気配を感じた。

まさか、戻ってきたのか!

 気配を探ると、あいつが思った以上に近くまで迫っているとわかった。俺としたことが傷に意識を奪われここまで接近するまで気づかぬとは…。
おい、俺の脚、動くか。
一歩踏み出そうとするが、思うようにいかぬ。それどころかずるずると体が壁伝いに沈んでいく。
くそっ、こんな姿をあいつに見せるわけには…。

「あれ…?誰かいるんですか?」
「…っ…」
「っサイゾウさん!!」

くそ、気づかれたな。
俺を見たカムイは両手で口元を覆い、顔面を蒼白させた。俺はもう一度足に力を込める。

「すま、ん。すぐに消える」
「あ、ま、待って動かないで!血が…!」

おい、こちらに来るな!
睨み付けてそう訴えるが、あいつは俺の目など見ちゃいない。
俺の傷を直視して、走り寄ってくる。
しっかりしてくださいと頬を小さな手で包まれると、異常な安堵が俺に襲い掛かった。
さっきまでは、見られたくないと思っていたくせに、今はもうどうにかしてくれと、カムイに助けを乞う自分に気が付いた。

「と、とにかく早く中に!たしか特効薬があったはずですから」

カムイは俺の脇下に肩を入れて、力を込める。
俺も再度足に力を込めて立ち上がり、カムイの誘導通りに部屋に入った。
俺はあいつの寝台に座らされ、壁に背をつく。カムイは戸棚から山ほどの傷薬を持ち出して俺の横に半ば投げるようにしておく。

「いいですか、脱がせますよ?」
「ああ…」

もう、腕を上げる力もないな。
相手はあくまで白夜王国の王女なのに、けがの手当てのためとはいえ服を脱がせるとは、俺もヤキが回ったものだ。
カムイは無言でうつむいたまま、たんたんと俺の服を脱がせて傷を見ていく。

「っ…」
「ここ…ひどい傷です…よく、帰ってこられましたね」
「大事な、情報だ、帰らぬわけにはいかん」

傷薬には魔力が籠められているため、即効性だ。
効果は薄いが、これだけの量あれば、サクラ様の手を煩わせずに済みそうだ。
薬を塗るたび、傷が浅くなっていくのを感じる。
やがて腕が動くようになり、俺は自分で塗ろうと手を伸ばした。
その手は、カムイにつかまれてしまったが。

「…おい」
「どうして…」
「……?」
「無茶しないって言ったのに…!」

俺の心臓が、大きく揺れた。
彼女は、ぼろぼろ流れてくる涙を何度も手の甲でこすりながら、俺のことを苦しげに睨んでいた。

「もっと、自分を大事にできないんですか!
大事な情報じゃなかったら、貴方は死ぬつもりだったんですか!
あなたが死んだら、リョウマ兄さんだって悲しむし、私も悲しいです」

カムイは再び薬を塗り始める。
うつむいた顔から流れた涙が、俺の傷に落ちて、じんとしみた。

「あなたは、」
「…すまん」
「ふっぅぅっ…いいですっ、帰ってきてくれたから、今回、だけは…許してあげます」

傷がふさがるまでの間、俺たちは無言だった。




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