アカネイア&覚醒&if短編
□幸運1のあなただけど
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「きゃあぁあ!!」
最近、よく叫びながら目覚める。
あたりはまだ暗くて、不安になるから急いでランプに火をともす。
そして自分の姿を見て、安心する。
よかった、私は竜じゃないんだって。
私が竜になれることは、戦略上とても役に立つし、竜になっても自我はある。
けれど、一度とはいえ竜になった自分がアクアさんを殺しかけたことを思うと、不安でたまらなくなる。
それに、私の姿に驚く兵士たちを見るのも辛いし。
いつか竜から戻れなくなったらどうしよう、仲間を傷つけたらどうしよう。
こんな日には、たいてい竜の夢を見ている。
白い竜が私を丸呑みするのだ。
そして、気が付くと私は竜と同じ目線になっている。
どんなにダメだって言っても、竜は私の仲間たちを攻撃する。
そんな、夢。
ああ、こんなに弱気でいる場合じゃないのに。私は皆を導いて行かなくちゃいけない。
皆が信じてくれる自分を信じられないのは、辛いと思う。
「うぅぅ〜〜〜っ!元気出してカムイ!」
ぱちんっと頬を平手で挟む。
目もさえてしまったし、朝の空気の中散歩すれば、きっといい気分になれるはず!
私はほかの皆をおこさないように静かにマイルームをでた。
マイルームを出て、マイキャッスルの門の近くまで歩いて行くとだんだん空が明るくなりだした。
薄い霧に包まれて、王座のあたりはその霧のせいでちゃんと目で確認はできない。
こんな風にすがすがしい空気の中だったら、声がどこまでも滑るように響く気がする。
歌ってみたいけれど、誰かに聞かれたら恥ずかしいし、きっとアクアさんのようには歌えないからやめておこう。
食堂の建物から、白い煙が立ち上り始めた。
今日の朝ごはんの係りの人はもう起きて支度をはじめているらしい。
せっかく起きたから、何か手伝えないだろうか。
私は振り向いて、足を踏み出す。
――その時、かさり、と何か音がした。
音のほうへ視線を向けると、そこにはこの朝の風景に似つかわしくない怪物がいた。
「こっ、こんなところにノスフェラトゥが…!」
腰に手を伸ばす――けれど、うかつだった。
まさかこんなところで遭遇するなんて思わなかったから、私は剣を装備していなかったのだ。
ノスフェラトゥは三体、もしかするとどこかにもう少しいるかもしれない。
どちらにせよ、無装備で勝つのは難しい相手だ。
冷や汗が頬を伝って流れていく。
私は、自分が唯一装備しているものに気が付いていた。
けれど気が付きたくなかった。
それは、竜石だったから…。
「ひっ……」
いつもなら、なんの躊躇もないのに、あんな夢を見た直後だから体がすくんでしまう。
もし、ここで負けたら、私の死体は竜の姿のままなのかな、なんてバカみたいなこと考えながら、後ずさる。
やがてテスフェラトゥがこぶしを振り上げた。
「っきゃああ!」
間一髪で避けたけれど、もう一発目の攻撃で私は吹っ飛ばされた。
すさまじい痛みに体を震わせて、起き上がる。だめだ、こんなところでバカみたいな恐怖に取りつかれて死ぬなんて…!
私は意を決して、胸に下げた竜石に手を伸ばした。
その時――
「ギャアァアアア!!」
「え!?」
どこからともなく斧が飛んできて、私に襲い掛かろうとしていたノスフェラトゥの…一体後ろのノスフェラトゥに命中した。
「だっ、大事な時に…!」
この声は…!
「ハロルド!」
「カムイ様!このハロルドが来たからにはもう大丈夫!」
多分、あの斧は私に襲い掛かろうとしたノスフェラトゥを狙っていたのが外れたん…だよね?
だけどそんなことも忘れさせるような力強い声が聞こえて、次の瞬間には目の前のノスフェラトゥには深々と斧が刺さっていた。
そっか、食堂の当番はハロルドだったんだね!
ピンク色のエプロンをしたまま、ハロルドは斧をふるう。
そしてノスフェラトゥはあっというまに倒されてしまった。
振り向いたハロルドは輝いた笑顔で「大丈夫かい!」と駆け寄ってくる。
エプロンは気になるけれど、本当に助かった……。
「ハロルド、ありがとう」
「いや、この程度、当たり前のことさ!
なぜなら私が正義のヒーローだからさ!はーっはっは!」
「うん、本当に…」
本当に、今のハロルドは私にとってはヒーローみたいで、その陽気な笑い声に悪夢も飛んでいくような気がした。
「しかし、なにも装備していなかったのかい?」
「え、ああ、はい…」
胸の前に置いた自分の手を、そっと背中に回して苦笑い。
けれどどうやらハロルドにはわかってしまったらしい。
「それは…竜石…かな?」
「あぅ…あの…はい…」
「なぜ変身しなかったのだ!」
ハロルドは顔をしかめて言う。
そうだよね、せっかく助けに来てくれたのに、助けた相手が力を出し惜しみしていたなんて知れたら、気分は悪いと思う。
思わずうつむいて、しかられた子供みたいに「ごめん」っていうことしかできなくて。
「ああ、いや、責めているわけではないのだよ!
あなたの日頃の行動を見ていれば、なにか事情があったのだろうと言うことくらい、私にはお見通しなのだ!」
「ハロルド…ごめんね、ありがとう」
大きな手で両の肩を持たれたら、なんだか気が抜けちゃって、涙目になりながら座り込んでしまった。
ハロルドが困ったように、だけど背中をさすってくれると少し気持ちが落ち着いてくる。
本当に、助けに来てくれたのがハロルドで良かった。
「何か悩みがあれば私が解決しよう!なんでも言いたまえ」
なんでも、か。
やさしいハロルドを少しからかいたくなって、「じゃあ明日から添い寝して」と言えばそれはそれは、盛大に赤面してそっぽを向かれた。
「な、な、な、何を…!いやしかし、それで悩みが解決されるならば添い寝すべきなのか…!?どうなのだっ…ブツブツ…」
「ご、ごめんハロルド冗談だから」
「っな!正義の心をもてあそぶとは…!」
「ふふっ、ごめんってば。
でも、誰かに一緒にいてほしいのは嘘じゃないんだ」
背中に回した手を前に持ってきて、そっと開く。
少しくすんだ色の竜石は、こうしてみればただの宝石みたいなのに、この中には私の恐ろしい力が籠められている。
「こわかったの。私が竜になって、戻れなく
なって、みんなを殺す夢を見たら、怖くなっちゃって」
「そんなことは…」
「わかってる。そんなことにはきっとならないって。
だけど、私以外に竜になれる人を知らないから、自分でこの力を知っていくしかなくて。
白夜の下級兵士の間で私が何て呼ばれてるか知ってる?暗夜のバケモノだって。
暗夜の兵士も、きっと心の中ではそう思ってるんだよ。
私だって、そう思うから――」
「それは違う!」
ばしんっと背中を叩かれ、続きの言葉をさえぎられる。
「みたまえ」
ハロルドは私の肩を抱いて、門の向こうを指す。
ちょうど、朝日が顔を出して、ぼんやりとあかるかった空が急激に明るくなっていった。
「朝日はいつみても美しいだろう?
常に暗い暗夜王国では、こんなにも明るい空は見られなかった。
この光が見られるのは、あなたがその力を持っているからではないのかな。
君が竜派を持つから、このキャッスルは過ごしやすく、いつも活気に満ちている」
「そんな、これはリリスさんの力ですから、私なんて…」
「自分を卑下してはいけない!
よし、ではあなたに私の幸運をあげよう!」
「え!?」
た、ただでさえ運の悪いハロルドの幸運を私がもらうの…!?
「だ、だめだよハロルドがさらに不運になっちゃうよ!」
「私の1程度しかない幸運をあなたに授けよう!
大丈夫!私はもともと運などないのだから、1だろうが0だろうが関係ない!
だが今のあなたにはたった少しの幸運でもあったほうがましに見えるのだ。
私は確かに不運だが、不幸ではないのさ!
っはーっはっは!!」
どうやって幸運を分けるんだろうとか、そういうことは浮かばなくて、朝日のもとで輝く金髪に、私はなんだかどんどん運がよくなっていくような気がした。
「…どうかな?私の幸運をもらったら、あなたは元気になってくれるかい?」
「っうん、なる。ていうかね、笑ってるハロルド見てたら、もう元気になっちゃったよ」
「そうか!それはよかった!
これからもおかしな夢を見たら私のところへ来ると良い。
真夜中でも早朝でも、貴方のために私はいつでも飛び起きよう!」
「ありがとう、ハロルド」
「では、元気が出たところで朝食を作らなくては!
みんなが起きる時間になってしまった!」
「あ、私も手伝うよ。助けてもらったお礼に」
「それはありがたい!」
ハロルドの差し出した手をつかんで立ち上がる。
朝日は私たちの影を長く伸ばしている。
今日も一日、良い日になりそうだ。
振り向いた先の食堂は、相変わらず煙を立ち上らせていた。
…ん?…煙…?
「…ねぇハロルド、食堂の煙突ってあんなに黒い煙でるっけ」
「……っしまったぁああ!火を消し忘れた…!私としたことが…!」
「えぇええぇええ!」
「しかし大丈夫!私の手にかかれば――」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ!」
「ああ!おいて行かないでくれカムイ様!」
幸運1のあなただけど end
あとがき
ハロカムが好きなんです。最初みたときはえぇえーって思ったけど、ハロルドはイケメンなんです。これを読んでハロカムに目覚める人がいたらうれしい…そんなにうまくはかけてないと思うが…汗
お付き合いいただきありがとうございました^^