アカネイア&覚醒&if短編

□眠る君に夢を見る
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*支援会話Sまでネタバレ


 心臓が嫌な音を立てている。
体内の音だと知りながら、誰かに聞こえて居場所がばれてしまうのではないかという緊張感が、さらに音を高めた。
たった一人で、広い倉庫の中を足音も立てずに走り抜ける。
最低限の金を腰の巾着に入れて立ち上がったその時、暗かった倉庫に明かりがともった。

「貴様……!」
「っくそ!」

手元の短剣を投げつけると、飛び散る赤い血。めまいがして、気分が悪い。
男が倒れ、音が響く。
何事だ、ともう一人男が現れ、自分の腹に痛みを感じた。
傷は浅いが、血が流れ出す。
瞬間、死の恐怖が襲い掛かる。
死ぬのは嫌だ――死ぬのは

「嫌だ…!」

斬りつければ、相手の命は儚く散った。
その血が、自分の脚に絡みついて、気が付けばそこは真っ赤な海だった。
自分は体にたくさんの金品を持っていて、けれどその血が邪魔をして動けない。

叫んだ――。




「――っ!!」

飛び起きて辺りを見回せば、そこは見慣れた部屋だった。
アシュラは荒い息を抑えようと口を手で覆う。嫌な夢を見た。  
今でも、いや、今だからこそこうして昔のことを悪夢に見る。
今までこんなことはなかったのに、いざ足を洗い反省した瞬間、罪深い過去がアシュラに襲い掛かる。

この頃、少し思うのだ。コウガ公国の再建という夢は、自分の犯した罪を正当化しようとしているだけかもしれないと。
再建したいという気持ちに偽りはないが、こんな風に悪夢を見るとそう考えてしまう。
コウガ公国を再建するため、俺は生き残るために盗賊行をやったのだと。
いつか再建を果たした自分が傲慢にもそう思ってしまうのではないかと、アシュラはひどく恐ろしくなった。
夢に命をかけるなんだと言うくせに、アシュラは自分がひどく臆病な男であることを知っている。
もちろん自分が死んでは再建と言う夢は果たされない。
無駄に命を捨てるわけにもいかないが、襲い掛かる攻撃が怖くないと言えば、それは嘘になる。
コウガの忍として働いていたときは、こんなことなんてなかったのに。
歳は怖いもんだ、と適当に結論付けて、朝を待とう。
バカな考えと悪夢を振り払うように頭を振った。
そして、起こした上半身をそっと寝台に戻す。

月明かりが、アシュラの右隣を照らした。
妻のカムイは、何も知らぬ幼い顔で眠っている。
月光に青白く染められた彼女はまるで死人のようだが、ゆっくりと上下する胸が息をしているのだとアシュラに教えてくれる。

 そうだ、自分の夢は、コウガの再建であり、また彼女とともにあることのはずだ。
隣にいながら、悪夢なんかにうなされたりして……。

アシュラは自分が情けなくなりながら、眠るカムイをしばらく見つめ続けた。
自分より一回り以上若い妻。
結婚してしばらくたつ今でも、彼女が隣にいることに幸福な気持ちは絶えない。
規則正しい寝息を聞いていると、自分の心が落ち着いていくような気がした。

どのくらいそうしていただろう、しばらくするとカムイは、むにゃむにゃと聞き取れない言葉を発してからぶるりと小さく震えた。
そういえば、アシュラが飛び起きたせいで布団がはがれていた。
アシュラはあわてて布団を引き上げる。

「ぁしゅら、さん?」

眠たそうな声が聞こえて、アシュラは顔を上げた。

「あ…すまん、起こしたか」
「いえ……」

半分しか開かない目は、ゆっくりとまばたきをする。
そしてその手はそっとアシュラの頬に伸ばされた。

「泣い、てる…痛い…?」
「え……」

自分は、泣いていたのか。
アシュラは初めて気が付いた。
涙を流すなんていつ振りだろうか。
カムイがぬぐっても、ぬぐっても、次々流れ出る涙。

「あのね、アシュラさん」
「…っ…」
「辛かったら、泣いても、いいんです」

へらっと笑ったカムイ、アシュラは今度こそ涙があふれてくのを感じた。

「…ったく、あんたは…」
「え?」
「ありがとな。さぁ、明日も忙しい。寝てくれ」
「はい」

カムイはもぞもぞとアシュラにすり寄り、すぐに静かな寝息を立て始めた。
アシュラは愛しい彼女に腕を伸ばし、自分もそっと瞼を下した。


 君に夢を見る



あとがき
ツイッターでフォローさせていただいている方からネタをいただいて書きました(ていうかくださいと強引に言いました←)
今度は自分で話考えられるといいです…はっははは←
実は暗夜一週目はアシュラさんと結婚したんです。おっさんがいると見過ごせない笑

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