アカネイア&覚醒&if短編

□君観察日記
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 そんなわけで、俺のカムイ監視記録は始まった。
俺はそもそも忍であり、この程度の任務はたやすいことだ。
まぁ、リョウマ様のお側で働くようになってからは敵の懐に忍び込むような仕事ばかりだったからな。
正直に言おう。なんて警戒心のない女なのだ!監視している俺のほうが緊張するほど、彼女は人の気配に疎かった。

「うぅん、視線を感じます。やっぱりサイゾウさんなんでしょうか…」

あたりまえだ。俺以外にだれがいる。
俺以外にだれかがいればそれはそれで問題だ。しかも視線を探るカムイは俺に背を向け――要するにあさっての方向を向いている。

む。カムイは温泉に向かうようだな。
ある種の敬意と言ったが、つまり俺はこういう場合には監視を行わない。
さすがに、リョウマ様の実の妹だ。気が引ける。温泉のそばの木の上で待機だ。

なに? のぞき? 
この俺が任務中にそのようなことを考えるわけがないだろう!まったく…。

監視五日目:異常なし。温泉も短時間。怪しい動きなし。だがため息が多い。


**


 監視は誰かに仰せつかった任務ではないから、俺は自分の任務をこなし空き時間に彼女の監視を続けた。
この頃ため息ばかりでつかれているようだが、俺が任務に出ている間に何かしているのだろうか。
…まさか、何か企んで俺の居ない隙を狙って…?
 いや、しかし気配に疎い彼女にそんなことが…いいや、そもそもその疎さ事態が演技かもしれぬな。
これは気が抜けん。

「はぁ、疲れますね…。あ、でもこの荷物を運んでしまわないと」

…おい、そんなに大きな荷物をお前が運ぶのか。
ため息をついたカムイはマイルームに置かれていた木箱を持ち上げる。
だいぶよろけているが…あの中身は、マイキャッスルの管理報告の書類が入っているはずだ。もしブチまけて数枚なくせば後々面倒なことになるかもしれん。
それに、一応同じ軍の者であり、そしてリョウマ様の実の妹…見ていながら何もせぬというのも気が引ける。
監視相手とはいえ、今は困っている軍の者だ。仕方ない。

「ん…っしょ、わっと…」
「…………おい」
「わぁ!」

声をかけるとカムイは大げさに飛び上がる。
おい、箱が落ちるだろうが!急いで腕を伸ばす。ふむ、これは女一人で運ぶには少々重そうだな。

「サイゾウさん…急に出てくるから驚きました」
「…ふん、お前が気配を察知できないのが悪い」

そのまま、箱を持ってやる。
ああ、そうだ。この際だ。何か企んでいないか本人に聞いて反応を見るのが一番簡単な方法だな。
こいつはすぐに表情にでるから。

「それより、どうしたカムイ。
最近は疲労の色が見えるな。お前の力など頼りにしていないが、皆の脚を引っ張るなよ。
それともなにか企んで――」
「あ、あはは…これはその、監視されている疲れなんですが」

……。

「何!?」

観察十日目:彼女は監視され疲れしているらしい。どんな疲労のしかたなんだ。
原理がわからん。ごまかしのつもりならば俺にはきかぬぞ。


**


 しかし、俺も少し殺気を飛ばしすぎていたかもしれんな。「監視され疲れ」のせいで戦闘に支障が出ては本末転倒だ。
少し気を抑えることにする。
今日もカムイは重そうな荷物を運んでいた。
俺が監視しているとわかっているのだから、これを運べと呼び出せば楽なものを。

「おい」
「はひ!もっもう!だから急にびっくりするんですってば!」

カムイは顔を赤らめながらそう言った。

「間抜けな声だな」
「いっ、言わないでください…あ、もしかしてまた運んでくれるんですか」
「……分かっているなら早く渡せ」
が、カムイは箱を持ったまま動かない。じれったいやつだな。
「あの、サイゾウさん」
「……」
「まだ私のこと疑ってるんですか?」
「当然だ」

即答すると、カムイは盛大にため息をついた。ため息をつきたいのはこちらだ。

「監視をやめるつもりはないぞ」
「そうですよね…とほほ…」
「だが――だからといって放っておくわけにもいかん。何かあるときは呼べ。おそらく何もなければ俺は現れるだろう」
「あれ、サイゾウさんずっと監視してるわけじゃないんですね」

っち、余計なことを言ったな。

「俺にも自分の任務がある」
「最近は視線を感じなくなったので、いるのかいないのか全然わかりませんでした」
「やはり疎いのだな。おい、それでこれはどこに運ぶんだ」
「え、悪いですよ。この前も運んでいただいて。終始無言でしたが」

終始無言だと責められても、お前との間に話題などないではないか。
お前の好きな甘味の話でもしてやろうか?
だがあいにく俺は甘味の話はできんな。
そういえば…俺は監視のおかげでカムイのどうでもいいようなことをいくらか知っているが、おそらくこいつは俺が甘味が苦手であることなど知らぬのであろう。
俺はあいつを知っていて、あいつは俺を知らない。
おかしな感覚だ。
いままで監視相手と話をする機会はなかったから、そう感じるだけだろうが。

「一応お前は仲間と言うことになっているし、一人で持たせておくほど俺は薄情ではない。
困っている相手を助けないのは、恥でしかないからな。
無言についてはとやかく言われる筋合いはない。」
「……っふふふ」

カムイはだらしない表情を浮かべてから、おかしそうに笑った。
こうしてみると、とても暗夜の王女だったとは思えないし、白夜の王女にも見えないな。

「……なにがおかしい」
「いいえ、ありがとうございますサイゾウさん」

柔らかい笑みに、思わず目を奪われた。

「……ふん。これで信用されたとは思わぬことだな。それで、どこに運ぶのだ」
「あっちの小屋です。……って置いてかないでくださいよ!」

監視13日目:異常なし。だがもっと筋肉を付けろ。


**


そろそろカムイの観察を初めて一か月ほどたつ。
今のところ彼女に怪しい動きはない。
今のところと言うか、半永久的に怪しい行動は起こしそうもない。
終始笑顔を絶やさず軍の者を気遣う姿は俺の部下にも見習ってほしいところだ。
いや、忍の部下たちが終始笑顔でいるのはまずい気がするが…。

それに、いい加減偵察の任務が増えてきてあまり監視していられないのが現状だ。
今までの監視記録を読み直しても怪しい点は見当たらない。
俺の自主任務も、終わらせる頃なのかもしれないな。
カムイにそれを告げれれば、彼女は喜ぶだろう。
それが少し寂しいような気持になり、俺は俺がよく分からん。
まぁ、いい。そうと決まればさっさと告げるに限る。
俺は監視記録を仕舞いカムイの部屋へ向かった。

外は暗く、月の光が建物の影を伸ばしていた。任務がなければ昼間に行くところだが…まぁ、この時間ならば確実に部屋にいるだろう。
思った通り彼女の部屋には明かりがともっていた。

 ――む、今日は誰かが一緒のようだな。
…いや一緒と言うのは違う。
彼女ともう一人との気配は離れている。先客か。
視力には自信がある。音を立てずに彼女の部屋の壁に潜んで見れば、扉の前には下品な表情を浮かべる輩が一人いた。
見慣れない顔だ。おそらくどこかの下っ端だな。
しかし、そんなやつが直接カムイに何の用なのだ。
しばらく待つと、その輩のもとへもう二人の男がやってきた。

「おい、本当にやるのか」
「おうよ。あの姫さんはどうにも疎いところがあるからな、うまくいくさ」
「今ならあの執事もいないしな」

…どうにも、良い雰囲気には見えない。
それに、奴らがやろうとしていることには予想が付く。
しかし許せぬ奴らだな。この白夜に、リョウマ様のおひざ元にそのような輩がいるとは!
だが証拠もなく締め上げるわけにもいかんからな。
俺は構えて、奴らが行動に出るのを待つ。奴らは三人で数を数えて、一気に扉を押し開けた。一ついいか。
鍵を閉めろカムイ…。

「っきゃあ!なんなんですか!」

カムイの悲鳴に、証拠をつかむまで、と冷静に待つことにしたはずの俺は焦って、気が付けばカムイと三人の間に割って入っていた。
もっともこいつらの動体視力では俺が突然現れたようにしか見えんだろうが。

「さ、サイゾウさん…!?」
「不用心な奴だ、鍵はかけておくんだな。で、お前たちはどこの部隊の者だ」
「っひ…!サイゾウ様…!」
「――二度とバカなことは考えるな。カムイの前でなければその首、どうなっていたかわからんぞ……!」

ふん、腰抜けどもめが。ああ、苛々する。
逃げていく背中に手裏剣を投げつけてやりたい衝動に駆られるが、我慢しておく。
俺はいまだ放心状態の彼女へ振り向いた。

「俺は行くから、鍵をかけて寝ろ」

監視一か月目:不用心に鍵を閉めない奴とは思わなかった。
ある意味監視を続けたほうが…いいや、明日で終わりだ。


**


「あのー!サイゾウさーん!監視してるなら出てきてもらえませんかー?」

翌朝、今日こそは報告をしようと彼女の部屋を訪れた瞬間、中から間延びした声が聞こえて俺は立ち止った。
…これは、行くべきなのか。

「サーイーゾーーさぁぁぁあんっ!」

…はぁ。

「……おい貴様。間延びした声で呼ぶのはやめろ」
「あ、やっぱりいたんですね! 最初はまだ朝だしいないかなって思ったんですけど、急にいる気がして」
「…今来たところだからな」
「じゃあ私も少しだけ気配がわかるようになったのかもしれませんね」
「っ…で、何をたくらんでいる。監視相手を呼び出すとは…」
「何かあったら呼べって言ったじゃないですか」
「今はそのような状況には見えんのでな」
「もう、堅苦しいですね。別に企んでもいませんし」

もう、分かっている。お前がおかしなことなど企んでいないと。

「この前は、荷物いっしょに運んでくれて、それで昨日は危ないところを助けていただいてありがとうございました。
それでお礼にお菓子を用意したから、食べませんか?」
「かっ……菓子…だと…!?」

な、なんという日だ…。
カムイがかかえているあれは、彼女がいつもうまそうに平らげる菓子だ。
朝からそんな甘ったるいものを見るとは…。

「どうかしました?」
「っそ、そんなものはいらん!勝手に一人で食べていろ!」

見ているだけで胸やけを起こしそうだ!

「あ、す、すみません…余計なことしちゃって…」
…………。
カムイはうつむいてしまった。いや、確かに礼だと言って準備してくれたものを断るのは申し訳ないかもしれんが、しかし…

「な、なにをそこまで落ち込んでいるのだ」
「いえ…少しはサイゾウさんと仲良くなれたかなって思ったのですが…どうやら思い込みらしかったので、なんか悲しくて…すみません」

今にも泣きだしそうな顔で言われて、俺は監視初日のように少し焦ってしまう。
もちろん、それが彼女の偽りない表情であることはよく分かっている。
それだけに、俺は以前よりずっと焦っていた。

何を、俺は焦っているのだろう。
とりあえず、お前にそのような表情は似合わない。

「…おい、その顔はやめろ。監視する俺の気が滅入るではないか」
「うぅう…しゅみません」
「……はぁ。俺は甘いものが苦手なんだ。気を…悪くしたなら謝る」

カムイは顔を上げて、だんだんといつもの明るい表情に戻って行った。

「なんだ、そんなことだったんですね!
てっきりサイゾウさんに嫌われているかと思って。
サイゾウさん、あなたが私を信用できない気持ちはわかります。
でも、ずっとそのままじゃ前に進めないと思うんです。
お互いを知ることって難しいけれど、まずは信じてもらえませんか、私のことを」

ふん、そんなこと。

「わかっている。お前がおかしなことを企むやつではないことくらい。
監視は今日で終わりだ」

そして、告げたその一言にひどく苦しくなった。
この頃の俺は少しおかしいな。だが、この気の抜けたような笑顔を見る機会も減ると思うと、少し惜しいような気持になるのだ。
案の定、彼女はよかった、と喜びを口にする。それから俺を見上げ、思わぬ一言を述べた。

「じゃあ、次に会う時は友達として話しませんか」

…………!?

「はあ!? 友達だと…!?」
「監視やめるなら、それでもいいじゃないですか。
私これからもっとサイゾウさんのこと知りたいですし、監視やめて関係なくなっちゃうのもさみしいですから。」

こっ、こいつは…っ!!

「か、勝手にしろ!俺はもう行くぞ!」
「あ、待ってください朝食一緒に取りましょうよー!」
「調子に乗るな!」

監視最終日:異常なし。
相変わらずゆるんだ笑顔だった。この記録も今日で終わりだが、これからは監視対象としてではなく、仲間として、友人としてカムイを理解できればと思う。


 君観察日記



あとがき
支援Sまでうまく入らなかったので続きかければいいなぁと思ってます
今回はせっかく公式が会話用意してくれてるんだからそれを使おうと思って書きました。
お付き合いいただきありがとうございました!
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