アカネイア&覚醒&if短編
□はやての羽
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はやての羽
(暗夜17章ネタバレ)
フウマ公国は桜の咲き乱れる美しい忍の里だ。そんな里に白夜王国の忍が襲撃してきたと言うので、暗夜王国のカムイたちはフウマ王国に加勢することにしたのだった。
カムイは暗夜と友好関係を結んだがゆえにフウマ公国が襲撃されることを黙って見るわけにもいかなかったのだ。
カムイは兄弟たちと協力し、それぞれ指揮を執って白夜の兵士を始末していった。
そしてその人は現れた。兄弟たちが全員そろったその場所に、瞳を傷で閉ざされた赤い忍びが突如現れたのだった。
「危ない!」
襲い掛かってくる赤い忍にスズカゼがとびかかりカムイの前で忍と剣を交える。そして緑の忍びは絶句した。
「あなたは…兄さんっ…」
「スズカゼ…!?」
はやての羽
「お前が俺と敵対しようが俺を殺しにかかろうが構わん。だがあいつ…コタロウにつくことだけは、このサイゾウが決して許さんぞ!」
「どういうことですか…」
「俺たちの父はあやつに殺されたのだ…!」
赤い忍を取り囲もうとする暗夜軍をカムイが制する間、スズカゼと忍はそのような言葉を交わしていた。
「ねぇ、お姉ちゃんいいの?」
エリーゼは仕方なく杖を下しながら不満の声を上げる。
カムイは無言でうなずいた。
「スズカゼさんの兄とはいえ、あれほどの力を持つ人がたった一人で攻めてくるとは考えにくいと思いませんか?
なにか事情がありそうです」
「相変わらず甘いねぇ、姉さんは…」
レオンも魔道書を小脇に抱えながら言う。
「お前は何もわかっていない!
今だって…あいつはカゲロウを人質に白夜兵に降伏を求めているんだ!」
忍――サイゾウが弟へ叫んだ言葉に、マークスがぴくりと肩を動かす。
カムイは兄を見上げた。
「兄さん、私は…こんな卑怯な手で勝ちたくはありません」
困惑するスズカゼと怒りをあらわにするサイゾウの後ろで暗夜の兄弟たちは頭を抱えた。
その話が本当だとすれば、暗夜の名に傷がつくことになる。
卑怯な手でつかんだ勝利などほしくないのだと、その思いだけは皆一致した。
「兄さんっ」
「…本人が来たようだ。直接話を聞こうではないか」
マークスも剣を下し、カミラはやってきたコタロウに道を開けた。
「コタロウさん、白夜の忍を人質にしたのは本当なんですか」
コタロウは暗夜の軍をほめたたえながら「白夜の忍の言葉を信じなさるのですか、まさかそのようなこと…」を呆れ顔で言う。
今度はマークスがどうするのだ、と妹を見下ろした。
「くそっ!とぼけるな卑怯者!」
サイゾウが今にも飛び掛からん勢いで声を荒げる。
スズカゼはそんな兄を落ち着かせようと肩をつかんだ。
カムイはサイゾウに目を向ける。彼の怒りはとても演技とは思えない。
しかし、どちらにせよ証拠不足だ…。
「ねぇお姉ちゃん、牢屋の中を見せてもらえばいいんだよ!それが一番じゃない?」
悩むカムイに、エリーゼは小声でそう言った。なんという名案だ!とばかりにカムイは頷く。
実際に見ればよいのだ、簡単なことだった。
「みなさん、とりあえず落ち着いてください。コタロウさん、あなたの話を信じるために、牢屋をすべて見せていただけませんか」
あたりは沈黙していた。
サイゾウは下された冷静な判断に目を見開いてカムイを見る。
わずかにコタロウがたじろいだ気がした。彼は無言でうつむくと、次に顔を上げるときには邪悪な笑みを浮かべていた。
「私はむしろ感謝されるべきだと思うがね」
カムイは、下げていた武器をとった。
「なるほど、父上と何かしらの約束を取り付けたと見た。
だが、私はお前のようなやり方は認めん。
貴様、本当はまだ兵を隠し持っているだろう!それもろとも俺たちがここで倒し、お前の態度を改めさせてやる…!」
「倒されるのは貴様らのほうだ…このコタロウの野望のため死んでもらう!」
コタロウは、そう言い捨てて忍びらしく姿を消した。
暗夜軍は皆武器を構えていた。
「兄さん、準備の指揮をお願いします」
「ああ」
兄に出軍準備までを任せたカムイは、スズカゼとサイゾウのもとへ向かった。
放っておけないと助けたフウマ公国は卑怯者であり、かつ野望のために自分たちを殺そうと言う。
それにも腹が立つが、彼女にはもう一つ気がかりがあった。
父を殺されたというサイゾウの話だ。サイゾウの父は、ここまで自分についてきてくれたスズカゼの父でもある。
それに、敵だとわかっていながら、カムイにはどうしてもその赤い忍が気がかりだった。
「サイゾウさん」
「お前は…カムイ…」
「ええ、お久しぶりですね。
私たちは敵同士です。でも今だけは、中立になっていただけませんか」
「……」
「今だけは、私たちが貴方を裏切ることも、貴方が私たちを裏切ることもありません、目的が同じだから。
それに、私たちがフウマ公国を倒すのを見ているだけでもいいんですか?
私の間違いでなければ、貴方は父の仇をとりたいのではないですか」
「…貴様などに何がわかる」
「わかりません。ですが、あなたがもし父の仇を願うなら、一緒に戦ってください」
スズカゼは兄と主君とを順に見て、不安そうにしている。
根気よく見つめ付付けるカムイに、サイゾウはため息をついた。
「お前の言うことは正しい。
ともに戦うことはできぬが、俺は俺のやり方で仇をとらせてもらう。
スズカゼ、お前も手伝え。
まずは罠を解除する。
お前たちはそのあとに続くと良い」
「っはい、ありがとうございます!」
軍の指揮に戻ったカムイは、背後から追ってくる兵士の対応を兄たちに頼んだ。そして前線の指揮は自分が取った。スズカゼとサイゾウがどんどん進み、罠を解除する。カムイはそれを援護するように周りの敵をなぎ払っていった。
「兄さんはそちらを頼みます! 私はあちらを!」
分岐した道を見てスズカゼが言う。
カムイはどちらの道にも半分ずつ兵を進めながら、自分はサイゾウに続いた。
スズカゼより幾分か広い背中と、素早い動き。カムイは敵に注意を払いながらも背後にいるのを良いことにそれを眺めていた。
サイゾウのほうは自分が見つめられていると気が付いているが。
「おい、貴様何のつもりだ。お前はスズカゼについていくべきだったろう」
サイゾウはわずかに振り向きながら言う。
ぎくりとしながらカムイは平然と返した。
「私はスズカゼさんの力はよく知っているので任せられるんです。でもあなたの力は知らないので」
「舐めたことを…」
「そうですね、あなたのほうが強そうです」
本当のところ、初陣で出くわしてしまったあの時、少しだけ見とれたのだ。
そしてまた戦闘で戦わなくてはいけなかったあのときも、少しだけ辛かった。
今は彼が父の仇と、仲間であるカゲロウのために戦っていることに少し寂しさすら感じている。
「どうせあなたとはこれっきりでしょうから、一つ戯言を言っても?」
飛んできた矢を防ぎながら尋ねる。
サイゾウは武器を投げつけ弓兵を倒しながら「勝手にしろ」と言った。
「たぶん私、貴方にひとめぼれしたんだと思います」
「……!?」
「あ、驚くとそちらの目も開くんですね、少しだけ」
「っバカにしているのか」
「してませんよ!あ、ほら危ない!」
カムイは再び飛んできた矢からサイゾウを守ろうと彼の肩を押す。
――と、サイゾウはカムイの手をつかみ、抱きとめるようにもう一歩左へ後退した。
カムイがよけようとした矢と、ほかにもう一本矢が飛んできていたのだ。
それに全く気が付かず……危なかった、とカムイはため息をついた。
「あ、ありがとうございました…」
「ふん。お前に死なれてはお前の所の兄に殺されそうなのでな」
心臓がうるさいのは矢のせいなのか、サイゾウのせいなのか…今は考えないでおこう。
指揮をしっかり取ればフウマ公国の兵士は多かったものの大方は片付いた。
戦闘は終わりに近づいている。少しだけ、バカなこととはわかっているがもう少し戦闘が続けばよいなどと罰当たりなことを考えかけて、カムイは頭を振った。
「サイゾウさん、私は疲れてしまいました。後はお願いできますか」
「お前…」
後は、といってももうほとんどの兵は倒れている。
あとできることと言えば、一番奥で逃げ場を失ったコタロウを倒すことだけだ。
サイゾウはカムイの気遣いに気がついて、一度武器を下した。
「ふ…暑いな」
そして彼は、唐突に
そういうとそっと、顔のマスクを指でおろした。カムイはサイゾウの素顔にくぎ付けになった。
彼は目線をそらす。
「お前は、暗夜の王女にしては甘すぎた。次に会う時は敵だと言うのに」
「そうですね。私も自分でバカだと思います」
サイゾウはマスクを上げなおした。
「さぁ、行ってください。
私は地下牢を見てきますから」
そして周りが気が付かないような小声で、「礼を言う」とつぶやくと弟を連れて最後の間へと向かっていった。
***
「二人とも!地下牢にカゲロウさんいらっしゃいました!」
地下牢で囚われていた忍は黒髪の美しい女性だった。
はじめは警戒されてしまったけれど事情を話せば従ってついてきてくれた。そして最後の間にたどり着くころには、すべてが終わっていた。
「サイゾウ!」
「カゲロウ…!無事だったか。さぁ、急いでリョウマ様のもとへ戻るぞ」
戦友の姿に、カゲロウは一瞬柔らかい、安堵の笑みを浮かべた。
二人の忍の姿は様になっていて、少し悲しくなる。
「かたじけない。…カムイたちと手を組んで助けに来てくれたのだな」
「いや…こいつらとはここであっただけだ。」
それに、その言葉も…。
わかっているけれど、手を組んだことくらいは肯定してほしかったなぁとカムイは思う。まだマークスたちはここにたどり着いていないのだし。
サイゾウはカムイに振り向いた。
「…お前たちのおかげで父の仇を打ち、カゲロウや白夜兵の命は助かった。
感謝する…が、次に会う時は敵同士。
その時は容赦なくその首を取らせてもらう」
「はい、私たちもですサイゾウさん。
次はもう、容赦はしません。
あと、戯言もいいませんから、ご安心を」
「ふん…。いくぞ、カゲロウ」
そして二人の忍は、去っていった。
それと入れ違うようにマークスたちはこちらにやってくる。
皆の無事を確認し合い、喜びの声が飛び交う中、カムイはたたずむスズカゼに目を向けた。
「スズカゼさん、こちらがわについたばかりに、お兄さんと対立することになってしまって…あなたには申し訳ないですね」
「い、いえ!そのようなことは…!」
「それに、サイゾウさん…。
もし私が違う道を選んでいれば、ともに戦えたかもしれません。
でも、私はこちらについたことは後悔していません。
じゃなきゃ、スズカゼさんにさらに申し訳ないもの」
「っふふ、そうですね。お互いがお互いの正義のために戦っているのですから、後悔など必要ありません。兄さんもきっと、そう思っているでしょう」
「はい、ありがとうスズカゼさん」
「そうだ、カムイ様、こちらを――」
微笑んだスズカゼさんは何かを思い出したように懐からあるものを取り出した。
それはなにか魔力を感じる、白い羽だった。
「先ほど、兄があなたへ、とおいて行ったものです」
「サイゾウさんが…」
「これは、<はやての羽>というものです。
ご存知ですか?これを使うと今よりさらに素早くなれるんですよ」
「へぇ…初めて見ました」
渡された羽を受け取り、カムイは少しだけ心が満たされる気がした。
「お使いにならないのですか?」
「はい。これに願掛けすることにしましたから」
「そう、ですか…?」
できることならば、貴方を殺さずにこの戦いが終わりますように、と。
***
「なぁ、サイゾウ」
「なんだカゲロウ」
「お前、あの<はやての羽>はスズカゼにやったのではないだろう。カムイへか」
「…なんのことだ」
「っふ、まぁ私は今回助命されたがわだ。何も言わぬ。ただ戦友として、お前の願がかなうとよいな、とだけ言っておこうか」
「…ふん」
はやての羽
あとがき
なんか、どうしても書きたかったので書きました。それだけです←