アカネイア&覚醒&if短編
□心の火を
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その日の野営地で、あたしは一人で考えていた。もしも未来からあたしの子供がきて、フレデリクとは違う髪色をしていたら。
けれどそれも悪くないかもしれない。だって子供がいると言うことは相手が誰であれ愛し合った人がいるに違いないから。
けれどもし子供が来なかったら、未来のあたしはきっとこの思いを捨てきれずに引きずって居るのだろう。
さっさとフレデリクの子供が現れればすぐに諦められるのに。
今は少しでも可能性があると考えてしまい、諦められない。
その思いはこの三日間で強くなった。
けれど戦争中、迷いがあってはだめだ。
あたしの肩には何千もの兵士の命がかかって居るのだ。
色恋沙汰で過ちをおかすわけにはいかない。
「あー!もう!いい加減に誰かとくっついちゃいさいよぉ〜!」
ものに八つ当たりもできなくて、部屋ではなく天幕だと言うことも忘れて叫んだ。
「ティアモとかマリアベルトとかリズとかティアモとか……」
「る、ルフレさんいかがされましたか?」
「うひゃあ!」
思わず立ち上がって、シャンブレー並の声を上げた。
声から察するにフレデリクだ。なんてタイミングできたのかしら。
恐る恐る振り向くと呆けた顔でこちらを見ている彼と、目があった。
「あ……あらフレデリク。」
「あの、大丈夫ですか」
「ごめん、ちょっと考えがまとまらなくて」
「お疲れ様です、食事を持ってきたので少し休まれてはどうですか」
「あら、悪いわね。もうそんな時間?」
「ええ。クロム様にもっていってやれ、と。ご一緒してもよろしいですか」
「ええ、もちろん」
「恐縮です」
戦略を考えて疲れたわけではない。だけどフレデリクと一緒にいるとよけいに考えてしまいそうだ。
でも彼から食事を共にしようと言われて断れるはずがない。
あたしたちは天幕の端っこに腰を下ろして夕食を取った。
「それにしても、ルフレさんの火おこしもだいぶましになりましたね」
フレデリクは笑顔で言った。
「う……上達が遅くて悪かったわね」
「いえ、覚えはいい方だと思いますよ。明日には自分で火をともせるようになるでしょう」
「そう……それはよかったわ!」
悲しいけれど、火おこしできるようになれば朝わざわざ起きる理由もないし、フレデリクと距離を置ける。
好都合だ。そう、好都合……――
特に話すようなこともなくて、私たちは黙って食事を進めた。
空気は重くはないがなんだか緊張している。きっと私のせいだろうな。
ちらりとみたフレデリクは今までに無いくらい近くにいたので思わず赤面した。
触れあった肩が熱い。
いつもの思い鎧を身にまとっていなくてもフレデリクは肩幅が広くて、男らしい。
真面目そうな整った顔はまさに騎士そのもので。
ああ、格好いいなぁなどと考えて、その考えを消すように首を振った。
そしてそろそろ食器の中が空になった頃、フレデリクは自分の隣に食器を置くと私の方を向いた。
私はそれを横目で見て、真剣な表情であることがわかったから同じようにして食器をおいた。
「ルフレさん」
「なに?」
「私は長らく、あなたのことを疑っていました。
けれどこの三日間で、あなたがどんなにこの軍に尽くしているのか、隣で見ることによってわかりました。
私はもう、あなたのことを疑いません。
今まで、すみませんでしたね」
それは思いがけない言葉だった。
やっと。
やっと認めてもらえた。
フレデリクが疑わなくなることはないだろうと正直思っていただけに、うれしかった。
思わず泣きそうにもなったけれど押し込めて、笑顔でありがとう、といった。
「それと……」
「うん」
「火おこし」
「うん」
「あれ、焚き火になるじゃないですか」
「うん、そうね」
「火が、燃えますよね」
「?……ええ……」
「そろそろあなたの心にも、火をともしたいのですが」
「うん……うん?!」
先刻と同じように立ち上がりそうになったが、フレデリクが私の両の手を自分の手で包んだことによって阻まれた。
フレデリクは戦闘中のように真面目な表情をしていて、嘘をついているとはとても思えない。
まだ状況がよく読み取れなくて、あたしは固まったままフレデリクの顔と包まれた手とを、交互にみやった。
フレデリクも頬も、ほんのりと赤かった。
「フレ、デリク……」
「はい」
「マジで?」
「本気です」
「いや、そこマジです、って返すところ……」
「どっちでもいいではないですか。私と違って余裕ですねルフレさん」
「よ、余裕じゃないわよ!ちょっと混乱して……それにフレデリクの方が――」
「では言い直しますけど、マジです」
「マジ……ああ、そういえばアカネイア大陸の歴史書にあったわ。
タリス国の傭兵オグマとその三人部下、バーツ、サジ、マジ」
「話をそらさないでくださいよ」
顔をそらしてべらべらとしゃべるあたしの頬に、フレデリクの手が添えられてそちらを向かされた。
それはさすがにもう何も言えなくて、黙り込んだ。
「そろそろ……だなんて、酷いわフレデリク」
「どういうことでしょう」
「だってあたしの火は、もうずっと前から――」
言い切る前に、あたしたちは口づけをかわした。
そんなことは初めてだし、突然だったからびっくりしたけれどうれしくて今度こそ溢れてきた涙は、天幕の隙間から降り注ぐ月光に照らされ、輝きながら重ね合わせた二人の手に、落ちていった。
あとがき
いかがでしたでしょう。
以前書いた作品なのに、今より上手いきがして軽くショックです笑