アカネイア&覚醒&if短編

□心の火を
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 クロムに拾われて、すぐに好きになった。真面目で、でもどこかずれてるところ。何に対しても一生懸命で……でもやっぱりどこかずれてるところ。

クロムじゃない、あたしが好きになったのはその隣の人、フレデリク。

 彼はあたしが軍師として拾われたばかりの時、あたしに疑いをかけた。それから天幕まで行く途中なんとなく後をつけられたこともあった。

別にフレデリクをストーカー扱いしているわけではないけれど。

ただそのときから戦闘ではいつも助けられていた。

あたしは腕は良かったけれど魔力が足りないみたいで、魔法はあまり得意でない。

だから殺し損ねた相手が襲いかかることもよくあった。

そんなとき、フレデリクは相手が襲いかかる前に槍を突いてとどめを刺す。

そしてたった一瞬だけ振り向いて、私が無事なのを確認して安堵の笑みをこぼすのだ。

私はそれにやられてしまったわけだ。

 ただ、好きだと気づいてからは少しつらかった。

フレデリクがあたしを助けてくれるのは軍師が居なくなればクロムが困るからであるし、それに彼はまだあたしのことを疑っているのだ。

それはどうしようもなく悲しくて、もちろんクロムやみんなのためでもあるけれど、何よりもフレデリクからの疑いを取り払いたくて私は一生懸命になって戦術を学んでいた。

 けれどあるのは気持ちだけだ。フレデリクと最低限以上の会話などしたことがないし、まず彼はクロムやリズのことしか考えていないだろう。

それに加えてあたしは女っ気もない。

まず恋愛に発展することはないだろう。

思わずため息をついたら「恋する乙女のため息たぁ、いいもんだねぇ」と通りすがりのグレゴがちゃかしてきた。

普段からそういうことを口にする人なので無視をすれば良かったものを、あたしは正直にその場に立ちすくんでしまった。

一度通り過ぎたグレゴが後ろ歩きに戻ってきて私の顔をのぞき込んで「まいったねぇ、こりゃあ……」といいつつ笑った。

勘弁してほしい。


「で、フレデリクがすきと、そういうことか」

「ちょっ……ストレートに言わないでよ!」

「はっはぁ〜ん、さてはおめぇ、こういう経験がないな?」

「なっ……悪かったわね、記憶をなくす前がどうかはわからないけれど身に覚えはないわ」


結局、あたしはすべてを白状させられた。

せめてスミアとか、リズだとか女の子に先に言いたかったのに。

まさかこんなおじさんに話すことになるなんて……。


「おいルフレ、いま失礼なこと思わなかったか?」

「い、いえ、なんでもないのよ?」

「…まぁいい。それよりその恋、諦めるつもりなのかい?」


グレゴはおちゃらけた様子を消して、珍しく真剣な面持ちで尋ねてきた。


「そうね……きっとどうにもならないし」

「でもどうにかしたい。そう思うか?」

「そりゃあもちろん……けどどうしていいか……それにね、フレデリクにとっては迷惑だろうしやっぱり……」

「よっし、じゃあルフレ、明日から日の出前に起きて、天幕から出てみろ、いいな?」

「グレゴ、なんていうか……私の話きいてた?」

「いやまったく」


***


 翌朝、起きるつもりは無かったのだけれど日の出前に目を覚ました。

まだ早いと目を閉じると、まぶたの裏に悪気のないグレゴの顔が浮かんできて、たまにはいいかと支度をして天幕を出た。

軍には気配に敏感な者が何人か居るのでそういう人を起こさないように気配を消しながら歩いた。

今日の朝食当番が誰かは知らないが、火おこしくらいしておくのもいいかもしれない。

何よりも日が昇っていない早朝なので寒かったのだ。

もの置きになっている天幕から道具を取ってきて火おこしを始める。

けれどなかなかうまくいかない。前に本でやり方を読んだのだが、経験しないとできないことだったらしい。

火の粉は出るのにそれを木くずに移そうとすると消えてしまう。


「う〜……なんでかしらね……」

「力のいれどころですよ」

「なるほど!……へ?」


驚いて振り返ると、フレデリクが歩いてくるところだった。

急に声をかけられて――それが想い人だったということもあり――驚いているとフレデリクはさっさとあたしの隣まできて、私がから道具を取り上げて「いいですか、見ていてください」といって火おこしを始めた。

唖然としながらもなんとかフレデリクの説明を聞いていとフレデリクはあっという間に火をおこして、種火は焚き火になった。


「すごいわ……」

「私の趣味みたいなものですから。ああ、本当の趣味は珍しいキノコさがしです」

「しゅっ……趣味!?キノコ!?」

「え、ええ……毎朝こうして起こして、小石拾いとともにキノコも探しています」


そっか、それでグレゴは……あのおじさんは何も考えずに言ったのかとおもったが、フレデリクの日課のことを知っていたらしい。


「へぇ……」

「ルフレさんはこういったことはしないのですか?」

「そうね……いつもフレデリクに任せていたのね。役に立つだろうし良かったら私に教えてくれないかな〜……なんて」


なんて、そんな都合の良いことは無理か。


「もちろん、私にできることであればお任せください」

「え?……でも」

「長らくルフレさんのことを疑っていたお詫びとでも思ってください」

「えっ……じゃあ今はもう」

「疑っていますけどね」


笑顔でのべたフレデリクに「ですよね〜」ガックリと肩お落としながらと返しつつ内心は肩を落とすどころか泣きそうだ。

でもとりあえずあのおじさんにはお礼を言っておこう。

彼の趣味も聞けたし、なにより素敵な朝になったと。


***


翌日から、フレデリクは私に火おこしを教えてくれた。

運の良い?事に私には火おこしの才能は全くと言っていいほど無いらしく、フレデリクにもこんなにへたくそな人は初めてだとまで言われた。

うまくいかないのは良いことではないが、できるまで毎朝付き合ってくれると言ったので状況的には都合が良かった。

さらにはその後の小石拾い――あまり意味はなさそうなきもするが何も言わないでおく――やキノコ探しから武器の確認まで、みんなが起きるまでにやることは一通り付き合わせてもらった。

私にもやることがあるだろうし、とフレデリクは一緒にやらせてほしいというのを渋ったが「わざわざストーキングしなくてもあたしが怪しいことしないか見張れるし、早く終わるし、一石二鳥じゃない?」と言ったら複雑な表情で少し考え込んで「ではご一緒させてください」と返事をもらった。

フレデリクが毎朝こんなに多くのことを一人でこなしているのだと考えたら何もせずには居られなかったのだ。


***


「ようルフレ、あれからどうだったよ?」


フレデリクと朝をともにするようになった三日目の移動中、馬に乗って戦術書を読んでいたあたしの隣に、グレゴがやってきた。

ここ最近いそがしくお礼も言えなかったからちょうど良かった。

あたしは馬を飛び降りて列に続きながら「いい感じよ」と返した。

いい感じではないのだがあたしにとってはフレデリクと他愛もない話をするだけでもいい感じ、であるのだ。

大男は肩を揺らして豪快に笑った。


「お前のいい感じ、のハードルは低いからな」

「あたしも今思った。けど、最近朝起きたとき気分がいいし本当、教えてくれてありがとう」
「そいつは良かった。

じゃ、その報酬はお前の子供の顔を見ることかな」

「ちょっ……からかわないでよ!」

「はは!いいじゃねぇか、お前の子供も、ルキナのようにそのうち未来からくるかもしれねぇよ。

どうするよ、子供の髪色が俺と同じだったら」

「寒気がするから冗談でもやめてよ」

「ふぃ〜、そうにらむなっての。……っとぉ〜後ろからも妖気を感じるぜ……」

「え?」


何も感じないけれど……でもきっと妖気ってことはサーリャだろう。


「ったく、あいつホントにお前のこと好きだよな」


と、グレゴはぼやくがあたしは違うと思う。

たしかにそれもあるかもしれないけれどサーリャは会話の内容からあたしに嫉妬して居るんだろうな。

それをサーリャ自身が気づいているかわからないけれど、最近二人とも仲がいいし。

妙な組み合わせではあるけれど別に悪くないと思う。

それに二人ともいつも仲良くしてもらっている友達だから、くっついてくれたらあたしとしてもいれしいけれど……どうなるのかしら。


「グレゴ、そうと決まったわけではないから、ちゃんと考えてみて」

「あ?なんだぁ?」

「いい?胸に手を当てて、自分が誰を好きか、誰に好かれているのかを考えて……」

「ノノ!?」

「え!?」


あ、妖気が私にも感じ取れる。

グレゴが考えてそう叫んだのかと思ったが、あわててグレゴを見てみると違うと言うことがわかる。

走ってきたノノが小さな体でグレゴに体当たりを食らわせたのだ。


「グレゴとルフレ何話してるの??ねぇねぇ、子供がどうとか言ってたよね?」

「あ……ああまぁ、そんなところだ」


グレゴが眉をピクリ、ピクリと動かしながら曖昧に答える。

いやな汗をかいていて今にも倒れそうだ。サーリャ恐るべしである。

それとは対照的にノノはぱぁっと顔を輝かせる。


「うわぁ〜!じゃあノノ今日はグレゴとルフレの子供になるからね!」

「ええ、わかっ……ええ!?」

「だってぇ〜、移動って疲れるし暇だから、移動しながらでもおままごとできるかな?って考えたの。

ね、ルフレいつも忙しいから今日は一緒に遊ぼうよ!」

「あ、あたしあの本読んでるから……」

「ふんにゅ!あれこの前読み終わったよ!」


あ、しまった。

これはこの前ノノと一緒に読んだやつだ……ほんの最後の1ページだけではあるもののつまりは読み終わったことは知れているわけだ。

何かいいわけはないか。

そうしなければグレゴがサーリャの妖気で死んでしまう!

そんなことも知らずにノノはあたしとグレゴの手を取ってぶんぶん振り回して歌を歌い出す。

まわりもこちらを見ながらくすくす笑っている。グレゴはこめかみを押さえている。

ノノはあの妖気を感じないらしい。


「ままとぱぱも一緒に歌おうよ!

ノノね、この前ロンクーともおままごとしたけどロンクーは歌ってくれなかったの!」


後ろの方で誰かの吹き出す声が聞こえた。

かわいそうなロンクー、軍全体に事実が知れ渡った瞬間だ。

グレゴが限界そうなのでわたしはせめてもの救いにならないかと思い、口を開いた。


「ノノ、ままとぱぱじゃなくて、ままとおじいちゃんね」

「誰がおじいちゃんだコラ!」


だがせっかくの助け船はグレゴ当人によって沈没させられた。

そしてあたしは気がつかなかった。

前方で平然と馬にまたがりつつも、だんだんと眉を寄せていく男がいたことを。




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