アカネイア&覚醒&if短編

□いたずら心
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 それは、本当に一瞬のことだった。


振りかざされた斧の重みに耐えきれなかったあたしの剣は、まっぷたつに割れ、それと入れ替わるようにしてヴェイクが、真横をすり抜けていった。

「――ヴェイク……!」

あたしが隣にいる上、重い斧では追いつかないと思ったのか、彼はあたしの前に飛び込んでいった。次の瞬間頬に血が飛び散る。

後ろに倒れてきたヴェイクを支えて、私は後ろに倒れた。誰かの魔法が、屍兵を燃やした。

 あたしははっとしてヴェイクを見た。悲痛に顔をゆがめたヴェイクは浅い呼吸を繰り返し焦点の定まらない目であたしをみる。


「へへっ……ルフレの膝枕なんざ……かなりレアもんだな」


ヴェイクは呼吸の合間にそういって苦笑した。

あたしは口をひらいてものどで言葉がつっかえて何もいえなかった。

ただ混乱している頭の中をたった一つのことが支配していた。

ヴェイクが死ぬ。

そう思ったとたんに、涙がぼろぼろ溢れてきた。戦闘を終えたみんなが私たちを取り囲む。

 今日の配置を思い出した。

シスターはどこだったろう?

混乱した頭ではそれすら正確には思い出せない。

リズが近くにいた気がするがほかの者の手当に回っているかもしれない。

 兵士がけがをして、瀕死になることはよくある。

そういう場合はすぐにだれかとダブルをくんでシスターの元へ向かうように指示もしている。

けれどはじめてだったのだ、ヴェイクがこんなにも余裕のない顔であたしを見つめてきたのは。

どんなに大けがをしたって笑いながら、なんてことないと言う彼の姿はもう、どこにもない。

あたしは首を横に振って泣いているしかなかった。

ヴェイクがくれた指輪にそれが落ちていく。

ああ、こんな事ならば杖の使える兵種になっておくんだった。


「ヴェイ、ク。しっかりして、よ……ねぇ」

「っ……さすがの俺様も、しっかりしてらんねぇな……。斧じゃなくて、剣にしときゃ、よかった、ぜ……」


駆けつけたクロムが貧相を変えて、あたしたちの前で立ち止まり口元を押さえているのが視界の端にうつった。


「まって、じゃべらないで……もうちょっと、耐えて……」

「なぁ、ルフレ」

ヴェイクが震える手を伸ばして、あたしの頬をつつんだ。

「愛してんぜ……」

「やだ、やだそんなこと言わないでよ……!ねぇ!」


ヴェイクは両手であたしの顔をはさんで、自分の方にひきよせた。

今にも死そうな者の力とは思えないような強さで。

あたしは逆らいもせず、そのまま唇を重ねた。

これが最初で最後のキスになったらと思うと、涙が新しくわき上がってくる。

そのときあたしは気がつかなかったのだ。

リズが、みんなが冷めた目であたあしたちを見ていることに……

ヴェイクの両手が解放されて、あたしはかがめた身を起こした。

そこにはいつものようににんまりと笑うヴェイクが居た。


「……え?」

「ついにルフレの唇を奪ったぜ!さっすが、俺様!」

「…………え?……え???」


状況が読み込めなくて斬られたハズのヴェイクの体をみてみたが、日に焼けた腹筋があるだけだ。

するとあきれ顔のリズがあたしの前にでてきて

「もうとっくに、全回復したんだけど。」

と言い放った。

つまり、あたし今だまされたってこと――!?


「へへっ。こうでもしねぇとお前キスさせてくれねぇからな!

ったくよぉ、婚約して一月以上立つのにキスもまだだなんて、いい加減おれ様の身がもたねっつの!」

「……――ヴェイク……さいってい!」

「あだ!?」


あたしはこんどは怒りのあまり肩をふるわせてヴェイクの頭がのっている膝を思い切り後ろに引いた。

ヴェイクは地面に頭を強打してうなっているがそんなことどうでもいい。

こんなにも心配したのに、あたしをはめてたって言うの……!?


しんじられない!

しかもみんなが見ている前でキスだなんて――!!


「ヴェイクなんてもーしらないんだからぁ!」


あたしは叫んで、逃げるようにして近くの森に走り込んだ。

もう、なんなのよ。何がしたいのよ、と頭の中で叫びながら走った。

途中誰かにぶつかってあわてて顔を上げると、それはグレゴだった。


「あ……ぐ、グレゴっ」

「ようルフレ……お?何ないてんだ?」

「ぐれごぉぉぉ〜〜〜!!」


普段から面倒を見てもらっているグレゴだったからあたしは遠慮なしに抱きついて泣きじゃくった。

グレゴはいまいち状況がつかめていないらしいが拒みもせずにそのままでいてくれた。


「ヴェイクのばかぁ〜!殺す!殺してやるぅ!ううっ……ぐすんっ」

「なんか恐ろしいこといってんぞ!お前さんもろくでもねぇ男につかまっちまったもんだな。だいじょぶかー?」

「ほんとよ!ろくでもないわよあの露出狂っ!ぐすっ」

「さんざんないいようじゃねぇかルフレ」
「っ!!」


しまった。ヴェイクは早々にあたしに追いついたらしい。

あたしはグレゴにはりついたままヴェイクをにらみつける。

グレゴはだいぶ居心地が悪そうだ。


「グレゴ、うちの嫁返してもらうぜ」

「おう、もってけもってけ」

「え、ちょグレゴ引き渡さないでよ!」

「わりぃな、俺も俺でいま嫁にすんげぇ殺気むけられてんだ。命がアブねぇ。またな」


グレゴは冷や汗をかきながらあたしをヴェイクにおしつけると何かから逃げるように走り去っていった。


「離してよ!」

「やなこった!」


ヴェイクは力任せにあたしを後ろから抱きしめる。


「酷いわよ、あんなに心配したのにキズふさがってただなんて!」

「悪かたって。マジで。だからホントに逃げるのはやめてくれよ……」

「ふつうあんな時にあんなこという?」

「だってよ……」


ヴェイクは、怒られている小さな子供のような声でいった。

顔をたれて、ヴェイクの顎があたしの肩に乗る。

珍しく反省しているのは伝わってきたから、なんだかあたしの方が悪いみたいになってしまう。

断じて違うけれど。


「俺様は、他人の言うことなんざそうそう気にしたりはしねぇけどよ、本当にルフレの旦那なのかって疑われたとき、正直不安になったんだよ。」

「疑われたって……誰によ」

「下っ端だよただの!お前が普段から忙しいことはわかってる。

だけどさすがの俺様もいい加減、不安になっちまったんだよ……クソッ、ガキかよ俺様は……」

「ヴェイク……」

「悪かったな、もうしねぇよ」


ヴェイクは、そっと手をゆるめた。


 いつでも太陽みたいな笑顔で手を振って、せっかくの二人きりの時間も仕事は大丈夫か、とか今日の俺様磨きがどうだった、とかそんな会話で終わらせて、でも時々嫌に真剣な表情で愛しているといってくれる。

あたしは、「あたしもよ」って返すだけで、「あたしも愛しているわよ」って返してあげた事なんて、一度もなかったように思う。

さっきはわるいのは断じてあたしではないなんて思っていたけれど、最低なのはあたしの方だ。


「――ま、待っていかないで!」


あたしはとっさに振り向いて、正面からヴェイクの背中に手を回した。

あたしからこうする事なんてほとんど無いから、恥ずかしかったけれどそれどころではなかった。


「ルフレ……」

「ごめんなさい、不安にさせてたなんて知らなかった……!

いつもあたしばっかり愛されて、あたしは何も返せていなかったのね。」

「――っんなことねぇよ!」

「そんなことあるのよ、ヴェイク!あなたのこと、愛しているわ!」


ヴェイクは、驚いたように目を見開いた。


「は、恥ずかしくていえなかったの!

だから、その……人前じゃなければキスしてもいいし……。

それにさっきは、だまされたと言ってもあなたに助けられたわね、ありがとうヴェイク。」

「お、おうっ」

「でももうかばったりはしないで!あたしのせいでヴェイクがしんじゃったら嫌だもの!」

「けどよ、俺だってお前が危険な目にあってるのにほっとけやしねぇよ!」

「だったら、あたしもっと強くなるから!」

「――そうか。……そうだな。要するに俺様たち、メンタルもボディもまだまだってことだったんだな……。

これからはルフレのためにも俺様磨きによりいっそうはげむぜ!」

「そのいきよヴェイク!」

「っしゃあ!やってやんぜぇ!」

「きゃー!もうヴェイクかっこいい!!

今日のことは忘れてあげるわ、あたしももうまよわないわよ!」

「なに!?キスのことは忘れるってのか!?」

「違うわよ……それは一生忘れないわ。サプライズだとでも思っておくことにしたの」

「ルフレ……お前のこと不安にさせたのに、許してくれるってのか……!?」

「あったり前よ!これからも夫婦円満ずっと仲良しでいようね。大好きだよヴェイク。」

「俺様も大好きだぜー!!!」


後日、みんながこの光景を木の陰に隠れて見ていたのだと知り、あたしがゆでだこになってしまうのは、また別の話――




あとがき

だいぶ前に書いたものですがどうでしょうか。
ちょっと ルフレ役がおばかっぽくなりましたが(きゃー!ヴェイクかっこいーのあたりです)それぐらいじゃないとヴェイクとは血痕出来ないと思います(笑

なんだか人気がないキャラですが私の誇るべき一週目旦那ですので(2週目ギャンレル←)どうぞみなさんも一緒にヴェイクをかわいがりましょう!(笑

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