テリウス短編

□まだ恋は始まらない
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※ちょっとゴートさんのキャラつかめてないし、竜鱗族もよくわかってないのにネタ来たので書きます。不快でしたらスルーでお願いします…
蒼炎12章ネタです。でも流れじゃっかん変えてありますのでご注意


 鳥翼族と船の上での戦いを終えて、私たちは陸に桟橋をかけて、動かない船の上で待機している。
どうにも船の底に岩が引っかかってしまったようで動けないのだ。
まぁあのシーカーとかいうラグズが襲ってこなければこんなことにはならなかったのに。
こんな岩が突き出た浅い海では座礁して当たり前だ。

 そんな中、団長のアイクが船を下りてしまい、なんといま竜鱗族の兵士と出くわしてしまい、最大のピンチの予感だ。なにしてんのよ団長。
勘弁してほしい。アイクがゴルドア兵に事情を話すのを甲板から見守る。話し合いは決裂したようで、ゴルドア兵が化身した。
甲板で隠れながら、弓を構えた。
心臓が緊張でバクバク。でも、それもすぐに通常に戻った。
やめないか、と声をかけた少年(に見える)のおかげで。

「こ、これは王子」

 なるほど、彼が王子か。
しかし皆の視線が王子に集まる中、私の視線はその隣にくぎ付けになっていた。赤いのだ。とにかくガタイがよくて、真っ赤な男が立っていた。
遠目でもわかる褐色の肌と、燃えるような赤毛、赤い服とそこから覗くたくましいからだに、くぎ付けで。
私は無礼かもしれないなんてこと忘れて、船を下りてあいくの斜め後ろに立った。

「私はクルトナーガ。ゴルドアの王子です」

 王子がアイクと話し合いをする。
私はアイクを心配するそぶりでここまで来たのに、まるで話など聴いていなかった

 近くで見ると、予想以上に大きい。
竜鱗族の特徴なのか、少しとがった耳。すっとしているけれど堅そうな鼻筋。顔には少し傷があって、眉はぐっと上がっている。
 あんまりずっと見ていたからだろう、とうとう彼は私の視線に気がついた。
もちろん愛想よく笑いかけられるどころか、怪訝そうに視線を返される。
どん、と心臓が打たれた気がした。どうしても目をそらせない。

 伝わるだろうか。私が竜鱗族を、ラグズを珍しがって見つめているのではない事。
これはベオクの女が、ベオクの男に向けるのと同じ視線であること。
竜鱗族はとても長寿と聞く。
私なんて生まれたての小娘かもしれないし、これが最初で最後かもしれない。
でもだからこそ、いま猛烈にあなたに惹かれていることに、気が付いてほしい。
 彼の口角が少しだけ上がった気がした。

「船のほうですが…私たちが力になります。食料のほうも…ゴート、頼めるかい? 
皆を指揮してくれ」
「はっ!」

 視線が、外される。
ゴートさんっていうんだ。素敵な、よく似合う名前。部下に食料を持ってくるように指示を出すゴートさんの姿を目線で追うと、クルトナーガ王子と目が合う。
なんだか微笑みかけられて、驚きながら微笑み返した。
海岸へ歩いていくゴートさんは、ほかの二人の部下を連れて竜に化身する。部下よりも一回り大きな竜の姿。
なんて美しくて、立派なんだろう。
ミストたちは三頭の竜が船を壊さないように押し出す様子に圧倒されている。私は、やはりゴートさんを見つめていた。
船が座礁から逃れた。

「ゴルドアは基本、他国との交流を持たない国だから、ベオクの私たちが彼らに出会えるなんて…」

感動したような様子のティアマトの言葉に少し寂しくなる。
やっぱり、そうよね。わかっているけれど。アイクがクルトナーガ王子のほうへ行き、船の様子を聞いている。問題なく出向できるみたいだ。
食料を取りに行ったゴルドア兵士たちが帰ってきたので、私は船の倉庫まで彼らを案内する。

「みなさん、ベオクの私たちの為に手を煩わせてしまいすみません。ありがとうございます」

 ゴルドア兵士たちはそれには言葉で答えなかったけれど、食料を置くと敬礼していってしまった。

「おい」
「!」

 もう倉庫には誰もいないと思ったのに、低い声で呼ばれて飛び上がりかけた。
振り向けば――いいえ、振り向かなくたってわかるわ。きっとこれは彼の声だって。

「はい」

 目障りだと怒られてしまうかしら? 
それでもいい、声が聴けるなら。振り向いて向き合う。何かを差し出されて困惑した。

「これを」
「これ……」

 それは、竜鱗族の鱗だった。ちょうど掌に乗る、小さな。まだ生えてきたばかりだった鱗を、さっき船を押すときにわざわざ見つけて引き抜いたの?

「痛い?」

 首を横に振る。貝殻のようにかたい鱗を受け取る。
私も何か持っていなかったかとポケットをまさぐると、手で制された。

「私は、その目の色をわすれない。それで、良い」

鱗を受け取った手を取られ、握らされる。手の大きさも、こんなにも違う。
同じヒトの形なのに、いろいろなものが違う種族だと教えてくれる。
彼がわざわざ鱗をくれた理由が、わかる気がする。
竜鱗族としての彼を、私が受け入れているとわかっているからなんだろうと。

「いつか」
「ええ」

 会えないと思う。普通に考えたら。
でもそう返して、背を向けた彼を見送った。
長寿の彼が私の目の色は忘れないというのだ。
ベオクのいう「一生忘れない」より、ずっとずっと重い言葉だったと思う。
私はすぐに出向するというので船に戻った。見送りの場に残ったのはクルトナーガ王子だけだった。
でも、それで良い。船は出向し、やがて王子は見えなくなった。
そっと掌を開く。
真っ赤な鱗。

「レティ? それって…」
「わぁ! すごい、それ鱗だよね?」

ティアマトとミストが気が付いてそう言い、アイクが覗きこむ。ふふ、いいでしょう? 
ティアマトは心配そうに言う。

「まさかほしいなんて言ったんじゃないでしょうねぇ」
「そんなのは言わないわよ! 記念よ。彼と私の」
「あなた…」
「っふふ、わかってるティアマト。私たちは、恋すら始まらずに終わったの。
でももしいつの日か再会できたら、わからないわ。私はその時にはおばぁちゃんかもしれない。
でもいいの。彼は私の目の色を忘れないといった。私の姿とは、言わなかったから」
「……そうね、大事にしなさい」

 ちょっとあきれながら言うティアマト、ロマンチックだねって笑うミスト、よくわかっていないアイク。
仲間たちに囲まれながら、私は振り向かないでおく。

 いつかまた、あの赤い大男に会える日を夢見て、今はまっすぐ進むのだ。



  恋はまだ始まらない 




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