IF長編

□9 め、目に砂が…
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すべての支度を終えて、私は家に戻ってきた。今はもう無人のお隣さん。
その家の扉を空ければ、そこは真っ暗闇。
やはりここが向こうへつながる道らしい。
たぶんハロルドが道を残しておいてくれたんだ。

私は一度だけ、世界を振り返った。
逃げてきた私を受け入れてくれた世界。
でも、ここでさよならだ。

一歩踏み出して、私はもう振り向かなかった。


***


「っきゃああああ!!」

目を開けると、まっさかさまに暗闇の中を落ちていた。
これは…ガンズさんに落とされたギュンターさんを見て、突然気力を失って身投げした後だ。ギュンターさんは結果的には生きているけれど、このときの私は当然未来のことなんて知らなかった。
それで、たぶん私の魂は誰も救えないんじゃないかって叫んで、いやになってしまったのだと思う。
でも、そんなことを考えている場合じゃない。なんとかこの状況を脱しないとせっかく戻ってきたのに…!

「我が祖、我が神、我が血…星竜モローよ、われに力を…!」

そのとき、聞きなれた声が聞こえた。これは…

「リリス!」
「カムイさま、今お助けいたします!」

リリスが小さな竜に変身するとあたりは光に包まれ、気がつくと私は地上に引き上げられていた。

<いつかこのときが来ると、信じていましたよ>

本来ならば、リリスはここで自分の正体について語る。
だけど今はまるで、私がわかっていることを知っているみたいに、その話はせずゆっくりと上昇していった。
そして再びあたりが光に満ちて、場所は馴染み深い、けれどまだまっさらなマイキャッスルに移っていた。
私をおろして、リリスは向き合った。

<覚えていますか、あなたは私にかばわれて、それを悔やんで死んでしまったこともあったんですよ>

「え…リリス…」

リリス、もしかしてそれも知っていて…?

<あなたはいつも苦しそうでした。
どうにかして差し上げたいのに、私は何もできなくて…。
だから、私があなたをあちらに送ったんです。あなたがこれ以上苦しむなら、と>
「リリス、あなたが…」
<でも、間違いでしたね。
ハロルドさんをそちらに送ったのも私です。
気づかされました。
この世界にはどうしてもあなたが必要なんだと。
ごめんなさい、私の身勝手でこんなことに…私は…>

そういったリリスは苦しそうで、私は申し訳なくてたまらなくなった。
リリスは何も悪くない。
ただ私が弱かったから、それだけだから。

「リリス、ありがとう。
私はね、あちらの世界で思慮深さとか、そういうものを学んだの。
それはこっちでも役に立つことだよ。
そして、今度は考え直して連れ戻そうとしてくれたこと。
本当に…ありがとう」
<カムイさま>

大きな目を閉じて、涙が竜のほほを流れていった。
リリスは消えそうだった。
おそらく、いまマイキャッスルを作ったことで、力のすべてを使い果たしてしまったんだ。

「リリス、ありがとう。
あなたの思いは無駄にしない。
私はきっと、みんなで幸せになれる道を探すから――ずっと大好きだよ、リリス」
<はい、カムイもずっと…大好き、です…>

リリスの消えるスピードが上がっていった。
私は先刻の橋の上に戻されて、リリスは消えてなくなった。

あふれてくる涙をぬぐって、予定通り暗転した。


続くよ

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