アカネイアall

□ゴードン
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弱虫ゴードン。
ずっと昔から、私が彼に抱いているイメージだ。
私たち、家が近くて幼いころからの友達。
だからゴードンの泣き顔は飽きるほど見てきた。
だから彼がアリティア騎士に志願した時、それはもう、とんでもなく心配したものだ。
ゴードンも自分から志願したくせに不安そうだったし。
だけどあれから、彼が王都へ行ってしまってから、たぶん彼は私の違うゴードンになっちゃったと思うんだ。

私の住んでるところは王都からかなり離れているから、もう数年は手紙でのやり取りだけでの仲になっていて、ほんの少しさみしい。
手紙の内容は、すごく怖い教官がいるんだって話だったのに、だんだん良い先輩がいるとか、例の怖い教官に褒められたんだとか、指の皮が厚くなってきたとか、前向きな内容ばかりになってきて、つい数か月前には後輩を指導したって話まで書かれていた。
人に教えられるくらい、強くなったのかな。

でも私は知っていた。
泣き虫ゴードンは、負けず嫌いで頑張り屋だから、立派な騎士になるにきまってるって。

「クリス!」
「……?」

家で内業をして、いつも通りただの村娘らしい生活をしていると、こうして男の人が訪ねてくるのは珍しい。
それにしても聞きなれない声だ。誰だろう。
戸口で私を呼ぶ人は、私が作業を中断させるのを待っている。

「クリス」
「はいはい、お待たせしまし…た…」

振り向くと、草色の髪の少年が――。
少年と言うには少し大人びた風貌だけど、その姿には大いに面影が残されていた。
私は思わず駆け寄った。

「ゴードン!」
「ただいま、帰還するって知らせておけばよかった。突然ごめんね」

いつの間に、背が伸びた。声も低くなった。帰ってこられなくてごめんね、と私の手を握る手のひらは、前よりごつごつしていて、たくましい。

「ゴードン…変ったわ、あなたって」
「当り前さ!僕はアリティア騎士になったんだから、以前の泣き虫とは違うんだ」
「そう…でも、どうして急に?」
「はじめて長期休暇をもらえたんだ。
後輩たちが仕事を変わってくれて、たまには帰省すべきだって」

照れたように笑うゴードンは、私の手を持ったまま歩き出す。私たちは家を出た。

「良い後輩たちなのね」
「そうなんだ。僕よりずっと出来の良い騎士たちだよ」
「でも後輩たちがわざわざ仕事を変わってくれるなんて、あなたきっと良い先輩になれたのね」

ゴードンは振り向いて、胸を張って見せた。

「クリスも、変わったね。
なんだか女性っぽくなったというか」
「皮肉?」
「ち、ちがうよ!綺麗になったねって話!
でも、やっぱりクリスはクリスのままだ!」

綺麗になったなんて、照れくさいこと言って。

「ゴードン、あなたも変わったけれど、相変わらずよ!」

私たちは幼いころみたいに手をつないで歩き出す。
なんだか不思議、弟の手をつなぐみたいな気持だったあのころとは、少し違う心境。
心があたたまるような、そんなある日。


 変化した関係、不変の君



あとがき
なまいきめゴードン!
しかしゴードンに弟がいると知ってから私の彼を見る目が変わったことも確かだ…

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