アカネイアall

□アベル
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 苦手な男。それは一言でいえば、イケメンだ。
そう!私はイケメンが嫌い。苦手と言うか、だいたいのイケメンが嫌いだ。
ブス専門ってわけじゃないんだけど、なんていうか。
あの、自分はイケメンだとわかっていて話している様子だとか。
あと最高に格好いいふりしてるけど実はそんなでもないとか。
流行に乗って髪を脱色してみたりしてるけど、髪の毛痛んでて全然素敵に見えないし、わざとらしい格好つけは本当にうんざり。
だから、私はたぶんあの人にひかれたんだと思う。

彼の名を、アベルさんと言う。

誰が見てもイケメンなんだけど、彼にはまるで着飾る様子がない。
それが不思議だった。女の子にも親切だけど、見返りを求めているわけではないし、いつも真剣で、同期のカインさんと手合わせをしているときなんて、すごく男らしいと思う。

もちろん、モテる。

よく誰かが告白したといううわさは聞く。
だけど誰もアベルさんと付き合ったことがないというから、それがまた魅力だ。
女をとっかえひっかえする輩ではないんだなーって。
ますますモテるわけだ。
なら、私もその数多くの一人になっても、彼の記憶に深く残ることもないのではないか。どうせかなわないだろうし、さっさと思いを告げて玉砕されに行こうか。

と、考え付いたのが昨日の話で、実は今アベルさんを呼び出したところだ。
なんか都合よくカインさんが通りかかったからおねがいしたんだ。
おそらくアベルさんは何の用事で呼ばれたのか分かっているだろう。
わかっていながらこちらへ向かってくる緑色は、律儀な人だと思う。

「カインからきいたよ、クリス、であってるかな」

嬉しい。名前、憶えていてくれたんだ。

「はい、お忙しいところすみません。さっさと要件を済ませますね」
「ああ…、…?」
「予想ついてると思うんですけど、前々から勝手にアベルさんに思いを寄せておりまして、お伝えしたかった次第であります」

一応これでも緊張しているのだよ。
たぶん、顔も真っ赤だ。
アベルさんは予想していたであろうに、なぜか不思議そうに私を見ていた。

「…俺のどんなところが?」

ど、どんな!?考えてなかったから、思っていたことをそのままに言ってしまった。

「イケメンなのに着飾らないところです、いえ、イケメンなので目に入ったけれど、イケメンじゃなくてもいずれは気になっていたんじゃないかと思います。
見返りを求めない優しさ、真面目なところ――ほとんど話したこともないですから、あなたのうわべしか知りませんけれど、一応そんなところにひかれました…はい」

公開処刑ですか。

「なるほど…正直君が全部ですって答えなくて安心したよ」
「ぜ、全部って…そんな風に言えるほどあなたのこと知らないです」
「それに付き合ってくださいとも言わなかった」
「まぁ、お付き合いしていただけたら嬉しいですけど、アベルさんは私のことほとんど知らないわけですし、でも言わないまま終わるのもなんだかなー、なんていうか微妙な気持ちなので、言うだけ言おうかな、と。
皆告白してるなら私一人の告白くらい記憶に深く残ることもないでしょうし」

アベルさんは、面白いものを見つけたとでも言いたげに私をみた。
なんか面白いこと言ったかな?
アベルさんはちょっと考え込んで、なにか納得したように「そうしよう」と言った後で、私の右手を取った。

「おかしな話だが…じゃあ俺から言おうか。
こんな言い方はあんまり世間的によくないだろうけど、ためしに俺と付き合ってみないか?
なに、俺も君に興味がわいたんだよ」


 そんな、奇跡


あとがき
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