アカネイアall

□マルス
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「マルス様」
「やぁ、クリス」

私は、騎士として罪を負っていると思う。

「ジェイガン様からマルス様がお出かけなさると聞いてきたのですが、お供しても?」
「クリスが?」
「はい!あ、マルス様がお嫌でなければですが…」

こんな聞き方って、とてもずうずうしい。
なぜならマルス様が嫌がるわけがないから。

「そんなことはないよ。君がいると心強い」

ほら。裏のないまっすぐな笑顔で、マルス様は承諾してくださる。

世界が平和になって、アリティアも復興し、この頃マルス様は城下の様子をよく見て回っていらっしゃる。
進軍中負傷兵たちのもとへ自ら赴いて励ましたのと同じように。
だからその助けになればと、それは正直な気持ちだ。
けれど下心がまったくないかと言われると…。

「じゃあ、行こうか」
「はい!」

マルス様は国王になられて、近いうちにきっとお妃様を迎え入れることになるだろう。
それまでにこの思いを振り切りたい。
進軍中は必至で気が付かなかったのに、世界が平和になった瞬間私がこの人に抱いていた敬愛の中には、それ以上のものがふくまれていると気づかされた。
進軍中こんな下心でマルス様についていたのかとおもうと、自分に嫌悪さえした。
けれど、やっぱり好きだから、その思いはぬぐえなくて。

城を出て広い中庭で、マルス様の一歩後ろを歩く。
マルス様はわずかに振り向いて、少しだけ歩みを緩めた。
私も、隣に並ばないように緩める。マルス様はなんだか残念そうにふっと笑みを浮かべて、また元の速さで歩き出した。

「最近、悩んでいるように見えるけれど」
「え?」
「なにかあったかい?」

――そんな風に、見えていたのか…。
だめだなぁ、主君にそんな風に気遣いをさせるだなんて。

「申し訳、ありません…」
「いいんだよ。君はアリティア城を出たあの時から、ずっと僕の部下としてがんばってくれただろう?
たまには僕から気を使いたいとおもったんだけど」
「そんな!マルス様にはいつも気を使っていただいて…」
「そうかい?
んー、まぁ、じゃあせっかく城下に行くのに君の顔が晴れないんじゃあなんだか気分がよくないな!
だから僕に話してごらん?」

ちょっと無理あったかな?と、また振り向きながらマルス様が言う。
抽象的なら、いいかなぁ。正直誰にも言えなくて、辛かった。マルス様はもう前を向いているから、私はその背中に向かって思いを吐きだした。

「これは…ぞくに言う抱いてはいけない恋心を抱いた、という話でございます。
決してそんな風に考えてはいけないはずで、十分わかっているのです。
それでも、やはり一度慕ってしまうとなかなか辛くて、忘れたいなぁ、と…」
「抱いてはいけない、か。年齢?身分?立場?」
「身分と立場にございます」

マルス様は、立ち止った。

「…僕も同じだよ」
「マルス様?」
「僕が結婚することで、国と国をつなぐことができる。
だけどあいにく僕が恋してしまったのは、普通の女の子だったんだ。
だから君の気持ちはよくわかる」

マルス様、お慕いしている女性がいらっしゃったんですね。
でもそれがさみしいと言うよりも、切なげなマルス様の顔を見ていると、私まで切なくなってしまう。

「そうですか…おつらいでしょう」
「うん、そうだね。だけど僕は諦めないよ。
だから君も諦めたらだめだ」

三度目に振り向いたマルス様は、笑っていた。

「まずはおんなじ位置に立って、一緒に歩いてみようと思うんだ。どうかな」
「同じ場所に立って、ともに歩くのは、よい提案です」
「ならばよかった!」

マルス様は、大股に一歩下がって私の真横に立った。

「じゃあ、行こうかクリス」



 三度目に振り向く笑顔で


あとがき
マルス様はシーダ様とセットなので、夢を書く日が来るとは思わなかった。
しかしなかなかたのしかったです
ふふふ←

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