覚醒all

□ロンクー
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「ロンクー!お願いがあるの」

「分かった!分かったからこれ以上近づくな」

「じゃあお願い聞いてくれるのね?」

「あ、ああ…俺に出来ることなら」

「じゃあ、野菜の皮を剥いてほしいの!」

「…は?」

ロンクーの手から、刀がおっこちて音を立てた。

私はこの軍の料理係なのだが、最近熱病がはやっているとかで料理場の人数があまりに足りなくて忙しいので、最終手段としてロンクーにすがりついたのである。

「ロンクーは野菜の皮むきがすっごくうまいって聞いたの!今人手が足りなくて…」

「わ、わかった!行くからそれ以上せまるな!」

ちょっと申し訳ないけれど出来るだけ近寄ってお願いすれば女が苦手である彼はあわてて承諾してくれた。

調理室に嫌々ながら付いてきたロンクーは、ジャガイモの箱の前に座ってさっそく皮むきをはじめてくれた。

「夕方には他にも人が来るんだけど、仕込みの人手が足りなくて。

私だけでコレ全部皮むきはさすがに難しかったから…ありがとねロンクー」

「…気にするな」

調理室には二人っきりで、私もロンクーがぎりぎり許してくれる距離で皮むきをはじめる。

実を言えば、二人くらい人を呼べばわざわざロンクーに頼む必要なんて無かった。

ただ皮むきが上手だと言うことを口実に、思い人と一緒にいられるというこの展開はなかなかおいしい。

ロンクーからすればいい迷惑かも知れないけれど、このくらいは許していただけるとありがたい。

「おい、そっちの包丁」

「え?」

「切りにくくないか。だいぶ古い」

「あ、ああ。そうなんだよね。あとでちゃんと手入れしないとだよね――」

と、その瞬間手元にあったはずの包丁が、手の中から消えていった。

驚いている間に別の包丁を握らされた。これはロンクーに渡した方の包丁だった。

顔を上げると、さっきまで後にいたロンクーが目の前にしゃがんでいた。

「え、いいよロンクー!手伝って貰ってるんだからいい方の包丁使ってよ」

「俺は別にいい。それよりお前は皮むきが得意じゃなさそうだ。

怪我でもされたら困るだろう」

ロンクーはいいながら元の場所に戻ってしまう。

だけどその耳は少し赤くて、私は彼の優しさに笑みを浮かべた。

すこしだけ、ロンクーがこっちに寄ってくれた気がして、笑みがもう少し深まった。



 お手伝い





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