覚醒all

□ヴィオール
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なんで。なんで言わないのかな。

「ああ!美しい!そんな君を是非とも我が妻として――」

こんなこと言ったら失礼だけど、あの男勝りなソワレにすら言ったし、もちろんかわいいオリヴィエにも言っていた。

言われていないのは…ノノくらいかな。

あと、私。

私はずっとヴィオールさんの事が好きだ。あんな風にプロポーズしてくれたらすぐにオッケーしちゃう。

なのに、私だけは大人の女性の中でまだ一度もヴィオールさんからの求婚を受けていない。

「ねぇなんでなの!?私女として見られてないわけ!?」

「…それ以前にヴィオールにプロポーズされたいヤツがいるとは思わなかったな」

「うるさいわよクロムさん!」

「す、すまん」

もう…なんか悲しすぎるんですけど。

「あいつもさっさとルフレにプロポーズすればあれ以上婚活しなくて済むのにな」

「本当だよもう…とにかく、今日の書類はこれだけなので後のところお願いします」

「ああ、ご苦労だった」

「おやすみなさぁい」

クロムさんの部屋をあとにして、私はとぼとぼと自分の部屋に帰った。

帰り道にも何組かとカップルを目にしてため息をついた。

そう言えば明日は非番だ。

恋人が居ればこんなに憂鬱なこともないのに。

あいにく友達とは非番の日が合わなかったからあしたはボッチ決定である。

部屋について、鏡の前に立ってみた。

全身映せる大きな鏡だ。さて、私のどの辺りがお気に召さないのだろうか。

「まっっっったくあの人の趣味がわからぬ…」

「おや、君ともあろう女性が悩みごとかな」

「ぎゃあう!」

背後から聞こえた声に、私は声を上げた。

あ、わかった。

こういう場面で「きゃっ」とか言えないからダメなんだな、そうだ、きっとそうにちがいない。

それにしても何で…

「なんでヴィオールさんがいるの」

「いやぁ、扉があいたままでね。夜に扉を開けっ放しておくのはよくない」

「それはどうもすんません」

私、扉も閉めずに…お恥ずかしい限り。

「それはそうとなにか用事ですか」

「いや?先ほども言ったとおり扉が開いていたので貴族的に声をかけたまでだよ。

ああ、それと頼みがあって」

「私にできることなら」

「明日の非番を僕と一緒にすごさないかい?貴族的に」

貴族的に…過ごす…ヴィオールさんと…非番を…?

「え…?」

「だ、だから要するに城下町にでも出かけないかと誘っているのだよ」

「は、はぁ…はぁ!?」

城下町に誘う!?

なにそのデートみたいな感じ!

え、でもプロポーズされてないんだからまさかデートのつもりで誘っているわけはないだろう。

これは完全にただの友達だと思われてる。そうだきっとそうだ…だとすれば。

この人はいったいどれだけ私の心をもてあそぶつもりだ…!

「嫌です全力でお断りです!」

「えぇえ!?な、何かお気に召さないのかい!?」

「じゃあ一つきいていい?」

「ななな、なんなりと」

「私に求婚しないってことは、私は女に見えてないって事なの?」

こういう聞き方ならただ「ねぇ私って女にみえてないわけ?」という単純な怒りだと受け取ってくれるだろうと思って私は思いきってそう言った。あ、なんか「うぐっ」って詰まった声を上げた。

やっぱり…そうなのか

「…いいよもう無理しないで」

「いや、そうではない」

そうじゃないといいつつ、ヴィオールはため息をついた。

「本当は…明日こそ言おうと決意していたんだが、まさかそんな風に思わせているとは思わなかったよ」

「…どういうこと?」

「本気であればあるほど、軽々しく口には出来ないだろう?」

ふふん、と得意げに笑いながら彼の取り出した銀色のわっかをみて、私は言葉に詰まって涙を流した。



 鏡の前で君に





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