花言葉

□細葉百日草
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 土方十四郎は、坂田銀時を屋号で呼ぶ。律儀に名乗り合うような出会いではなかったし、本名など知らぬままに「お前」とか「テメエ」とか適当な二人称で呼びかけることが常だった。当然、周りが呼ぶように「銀さん」「銀ちゃん」と愛称で呼びかけるなどは論外である。
 本名を把握してからも、土方は彼を「万事屋」と呼んだ。相手はと言えば、名字で呼びかけてくることが多くなり(時たま多串くんなどととぼけることもあったが)、彼がいつか称したように、気づいた時には腐れ縁が互いの間で絡まっていたようだった。

 坂田銀時が江戸を去ってから、二年が経とうとしている。万事屋の主が姿を消しても、あの看板は未だ変わらず同じ場所に鎮座しているのだろう。過日、僕の我が儘なんです、と呟いた少年の笑みは寂然としていた。
 家族と変わらぬ絆で銀時と繋がっていた新八が、銀時の背を追い続け、待ち続けていることを我が儘だと言うのなら、己がしていることは銀時本人から見れば随分と過干渉な振る舞いであるに違いない。
 それでも、万事屋のために動かないという選択肢は、土方の中にはなかった。過干渉だと笑うなら、お互い様だと言い返すことが土方にはできる。彼が真選組のために木刀を振るったのは一度や二度ではないからだ。

「散々、腐れ縁だなんだとぼやいてやがったんだ。こんなところで、あっさり切ってくれるなよ」

 土方十四郎は、坂田銀時を屋号で呼ぶ。その呼び名こそが、彼の在り様そのものだからだ。
 万事屋、と見えぬ姿に囁く声は紫煙と共に空へ溶ける。らしくもなく、祈るような心地で、緩やかに立ち昇る煙の行き先を追いかけていた。





◇◆◇◆◇◆

「不在のあなたを思う」

他、「友情」という花言葉だったのでうっすらくっついていない前提っぽくなりました。
5年後でも2年後でも銀さんのことをおもっている土方さんが公式描写なのだと読み直し観返すたびに「本当か!?」と唸ります。




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