グラブル

□水古戦場お疲れさまでした記念話
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 抜けるような青空にはためく色彩豊かな洗濯物が、祭りで賑わう町並みに見る垂れ幕のようで、気持ちが弾む。揺れるシーツの波をぬって追いかけっこをする子どもたちの笑い声が、ロミオの胸中を穏やかな色で満たした。
 大きな仕事が無事に終わった後、暫しの休息を得ることがグランサイファーに搭乗する団員の常だった。艇は都市を擁する島に停泊し、甲板には洗いたての衣服が並び、団員たちは疲れを癒すために各々の休暇を自由に過ごす。
 此度の依頼を受けるにあたり、若き団長はヴェローナで執筆活動を続けるロミオを招集した。友人である君の為なら、とロミオはこれに了承を返し、火の元素が荒ぶる古戦場で怒濤のような七日間を乗り越えたのだった。

「ユーステス、コンデル。それじゃあ、悪いんだけど……」
「ああ、任せてくれ」

 笑みを浮かべるロミオと静かに頷くユーステスに、「ありがとう、よろしくね」と重ねたグランが、ルリアとビィ、そしてドランクとスツルムを伴って街の中心部へと向かっていく。
 シェロカルテの出張店へと赴く彼らの背を見送ったロミオは、足元で利口に「待て」の指示を守っていた大型犬に視線を落とした。
 休暇と称してはいるものの、艇内の全てが一息にその活動を止めるわけではない。食堂をはじめ、ラードゥガや喫茶室は普段通りに人が出入りし、掃除洗濯の持ち回りは少しの調整を伴いながらも滞りなく巡る。
 そんな中、休み前の最後の仕事と依頼達成の報告へ向かった団長から、ユーステスとロミオは共に戦場を駆けた四つ足の仲間たちを任されていた。

 赤いバンダナを首にくくった、黒と白の毛色が混じる犬が六頭。そのうちの一匹はまだ子犬で、ころころと丸い体は大人の五頭の間にすっぽりと埋まっている。
 こちらを見上げる瞳は期待に満ち、その輝きがまた後ろで佇むユーステスの双眸に滲む光とよく似ていて、微笑ましかった。
 感情をめったに表出させない彼の、これほどまでに分かりやすい表情を引きだせる存在は、この世に十とないだろう。そのうちの一つを担うものを目の前にしたユーステスの面差しが、ロミオの頬を緩ませる。

「じゃあ、僕たちも行こうか」
「ああ……」

 ぴんと立った黒い耳がロミオの声を拾うように動くが、その視線は未だに足元に注がれている。
 触れたいと思う。けれど怯えているのが分かるから、手を伸ばすことができない。
 いつかの語らいで、ユーステスはそう囁いていた。ルリアのおかげで克服はできたが、と続いた言葉の後、それきり黙ってしまったこともロミオは覚えている。

 つまるところ、彼は遠慮しているのだ。手を伸ばせば受け入れてもらえるのに、拒まれることが怖く、それ以上に恐怖を与えることに負い目を感じて、葛藤の末に自身の望みを抑えこむ。
 元来そういうことが得意な彼は、今もそうしてただ見つめるだけに留まっているのだろう。
 ロミオがその場に膝をつくと、青い目を輝かせた彼ら――ハスキーという犬種らしい――は一斉に鼻を鳴らして顔を近づけてきた。
 鼻息がくすぐったく、時折顔や手を舐められながらも五頭からの挨拶を受け終えたロミオは、目を丸くしているユーステスを振り仰いで手招いた。

「ユーステス」

 呼ぶ声に引かれ、伸びた手に引かれ、ユーステスはおそるおそるといった様子で、ゆっくりとロミオに倣って膝をつく。
 途端、素性を確かめようと集まった五つの鼻先から洗礼を受けた彼の唇は戸惑いながらも控えめな笑声をもらして、ロミオの鼓膜を優しく揺らした。
 大人たちがユーステスに挨拶をする足元から、ころりと子犬がまろびでる。小さな体を抱きあげたロミオは、その柔らかなぬくもりに胸の内があたたかくなるのを感じた。
 彼にも分け与えたい、と自然と思うのは、彼が動物を好いていると知っているからだろうか。

「ユーステス、ほら」
「いや……俺は……」
「川までは距離があるから、抱いてあげたほうがいいと思うのだけれど、どうだろう?」
「……そうか。……分かった」

 幸せを噛み締めるような声音、とはおそらくこういう声をさすのだ。我が子を初めて腕に抱く、父親になったばかりのかつての部下もこんな反応と表情をしていた。
 ほう、と細く深い息を吐くユーステスの緊張した面持ちが、子犬の愛らしい鳴き声を耳にした瞬間に、まさに蕩けるように破顔した光景を、ロミオが忘れることはないだろう。





◇◆◇◆◇◆

これをちまちま書いている間にロミオの新規絵がアップされていてもう〜〜〜〜早く続編をサイドに入れてくれ〜〜〜〜
タイトル思いつかなかったのでまたそのうちに…。




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