つながる想い

□第3話
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「終わったあ!」

 夕飯を食べ終えて少ししてから、隣からそんな声が聞こえてきた。

 声の主、俺の姉の美優はすぐにパソコンなどを片付け、足早に厨房に入っていった。

 皿洗いぐらい、向こうの人に任せとけばいいのに。

「美優ってさ、毎日毎日よくあんなにやるよな」

 斜め左に座っている一也が歩いていく美優を見ながらそう言った。

「あいつ練習終わったあともいろいろやってるよな。試合続く日なんか飽きるほど試合のビデオ見てるし」

 去年の夏の大会のときはほとんど寝てなかったな。

「自分は戦力にはなりたくてもなれないからな。野球が大好きなんだよ、あいつは」

 誰よりも、な。

「あいつが男だったらぜってえ主力メンバーだよな」

「あいつが男だったとしても、主力にはならないよ」

 監督がそう言ったとしても、あいつは首を縦に振らないだろ。

「どういうことだよ、それ」

「さあな」

 トレーを下げ、俺はそのまま食堂を出た。

 あいつはまだ引きつってんだろ、あのときのことを。

 そう思いながらグラウンドの周辺を走り始めた。

 あいつの心配ばっかしてらんねえな。俺ももっと集中しねえと。

 ん?

 グラウンドには他の人影があった。

 あれは……沢村、だっけか? タイヤ引いて走ってんのか。

「あっ、えっと……」

 沢村がこっちに気づき挨拶をしようとしているのだが、きっと名前がわからないのだろう。

「俺は天野優也」

「天野……ん? 天野……?」

 こいつの思考って読みやすいな。どうせ、どっかで聞いたことあるようなとか思ってんだろ。

「スポーツトレーナーやってる天野美優の双子の弟だ」

「なるほど! 納得っす!」

 こいつも投手なんだよな。クリス先輩といるのを何度か見たことがある。

「負けねえから」

 お前たちには、絶対に負けない。

「望むところっす! 俺は必ず、エースになります!」

 エース……。

 ――「エースってさ、すっごくかっこいいよね」

 その言葉を思い出したとき、自然と口角が上がった。

「譲らねえよ」

 絶対にな。
 

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