つながる想い

□第1話
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 トレーニングは順調だし、もうそろそろ次のメニューも加えて大丈夫か? こっちはまだ様子見だな。

 そんなことを考えながらパソコンにデータを打ち込んでいく。

「美優」

 食堂でカタカタとデスクワークをやっていると、聞き慣れた声が私を呼んだ。

「何? 優也」

 一度手を止めて、声のしたほうを見てそう聞いた。

「一也が呼んでる。それから、それが終わったら球受けてほしいんだ」

「ん、わかった。終わり次第ブルペンに行く」

「ああ」

 軽く周囲を片してから一也がいるであろうグラウンドに向かった。

「一也、用って何?」

「おっ! 来たな、美優」

 一也の隣には見覚えのない背の高い奴と元気そうな奴がいた。

「一也。こいつら、誰?」

 指をさしながら隣にいる一也に聞いた。

「お前、こいつら知らねえのかよ。おいお前ら、挨拶」

「降谷暁」

「沢村栄純! エースになる男です!」

 エース、ねえ。

「ってか、どうして女がここにいるんっすか? マネージャー?」

「ちげえよ。こいつは天野美優、2年。スポーツトレーナーだ。毎日毎日練習メニュー作ってんだぜ? あと毎日の食事もな。お前らだってメニュー――」

「一也、1年にはメニュー作ってない」

 基本1年は体力作りだし。

「あー、そういえばそうだったな。ちなみに降谷はこの前の試合で1軍に、沢村は2軍に入った。2人とも投手だ」

 へえー。1年でもう。今回は例外か。丹波さんがあれだし。

「で、用件は?」

「こいつらの指導を頼みたい」

 はっ?

「なんで私が? 投手の指導ならあんたとクリス先輩でやればいいでしょ?」

「いや、そのつもりなんだけどさ」

「俺はもうあの先輩とは嫌です」

 と沢村がぼやいた。

 クリス先輩と上手くいってないのね。

「じゃあ何?」

「俺たちの補佐っていうかさ、指摘してほしいんだよな。お前洞察力あるし、俺たちが気づかないこと気づくかもしんねえだろ?」

 うーん……。

「俺の球取れない人にとやかく言われるのは嫌です」

 今度は降谷がぼやいた。

「だってさ。本人は望んでないみたいだよ」

 望まれないことやるのはごめんだ。

「降谷、お前はこいつを知らなさすぎだ。こいつが男だったら、完璧お前より腕は上だぜ?」

「……っ!」

 そんな驚くことか?

「……まあでも、馬鹿にされたままってのもむかつくし、それぞれ3球受ける」

 1年でどれほどの球投げるのか、興味はあるし。

「了解。はい、ミット」

「どうも。移動すんの面倒だし、ここでいいでしょ?」

「ああ」

 ミットを付け、ある程度の距離を開けて腰を下ろした。

「はい、なんでもどうぞ」

 ミットを構えた。

 まずは降谷から3球受けた。

 へえー。

「球速はある。だがコントロールはない。これは私の予想だが、スタミナもないな。全球全力投球でペース配分も未熟だろ。まあまずはスタミナをつけるんだな」

 最初だけならこれでも防げるだろうが、将来的には終盤まで投げ続けるだろうし。スタミナはあって損はないしな。

「はい、次」

 今度は沢村のを3球受けた。

 ……ムービングか。

「面白いボールだ。打者を惑わすにはよさそうだが、それでも球速はないしコントロールもない。これじゃあエースなんて夢のまた夢だ」

 ムービングができるんだし、内と外の投げ分けと変化球があれば上出来だが……。

「そんじゃあ私はこれで失礼する」

「あっ! おい、美優!」

 一也にミットを返し、ブルペンに向かった。

 ……もうすぐ夕食の準備しないと。急ごう。

 時計を見てそう思い、急いでブルペンに向かった。
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