真と偽り

□第8話
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「月宮」

 仕事も終わり、定時も過ぎたため帰ろうとしたときに、隊長にそう声をかけられた。

「はい」

「このあと予定あるか?」

「いえ」

 ただ早く帰りたい。

「じゃあちょっと付き合え」

「えっ!?」

 嫌な予感しかしないのですが……。

「いいよな?」

「……はい」

 連れてこられたのは修練場だった。

 ……どうしてこういうときは勘が当たるかな?

「月宮、俺と戦え」

 はあー。

「それをする必要性を感じません」

 どうして今さら……。

「お前の本当の実力を知っておきたいんだ」

 本当の……実力。

「隊長格には及ばない。それが私の実力です」

「本当にそうか?」

 えっ?

「何が言いたいんですか?」

「お前はこの2年、数多くの虚を倒してきた。だがそれは鬼道か解放されていない斬魄刀でだ。俺は始解しなきゃ虚は倒せない。いくら隊長格が強いと言っても、そんなことできんのはお前ぐらいだ」

 隊長、ね……。

 ――「おぬし、隊長になってみてはどうじゃ?」

 昔、あの人にそう言われたな。

 あんなことがなければ、きっと今私はその羽織を着ていただろう。

「私はこれ以上上には行けませんよ」

 私は強くないから。

「1回ぐらい戦わせろよ」

 はあー、しつこいな。

「……わかりました」

 とっとと終わらせよう。

 私は修練場に結界を張った。

「結界?」

「はい。これで多少暴れても問題ありません」

 始解だけでも気づく奴は気づくからな。

「さて、始めましょうか」

「……ああ」

 殺さないようにしないと。落ち着いて、冷静に。

「隊長に1つご忠告を。本気で来ないと、死にますよ」

 一応加減はするけど、なにせ久しぶりの解放なんでね。

「離れていてくださいね、副隊長」

「え、ええ」

 副隊長が離れたのを確認し、抜刀した。

「天地を潤おせ、霖雨」

 隊長と私の周辺にだけ雨が降り始めた。

「形状は変わんねえのか」

「さあ、どうでしょうね」

 ご自分でお考え下さい、隊長。

「霜天に坐せ、氷輪丸」

 氷雪系最強を誇るとされる斬魄刀、氷輪丸。だが強力すぎるが故に完璧にはコントロールできていない。

 氷の龍がこちらに向かってきた。

 それを軽く避けるが、地面が凍ってしまった。

「水は全て俺の武器となる。相性が悪かったな、月宮」

 あはははは。

 笑いを堪えるのが大変だな。

「では、ご自分の武器で痛い目に遭ってください。――暴れろ、霖雨」

「何!? ぐはっ……」

 隊長は地に膝をつき、吐血した。

「これはただの水ではありません。あなたの能力を持ってしても、これを凍らせることは不可能」

「なっんだ、これは……。体の中で、何かが暴れて……」

 それだけしゃべれるなら大丈夫か。

「それが私の斬魄刀、霖雨の能力です。解」

 そう言って刀を収めた。

「げほっ、げほっ」

「隊長!」

 副隊長がすぐに駆け寄った。

「安心してください。大事には至りません。どこもいじってはいませんよ」

 吐血はちょっとやりすぎたか。

「では、失礼します」

「月宮」

 立ち去ろうとしたら、隊長に呼び止められた。

「はい」

「お前の戦う理由はなんだ?」

 理由……。

「隊長がそんなことを聞くとは思いませんでした。戦う理由、そんなものはとうの昔に失いました。私自身わかりませんよ。なぜ戦っているのかなんて」

 ここにいる理由なら、あるけどね。

「昔は、どんな理由だったんだ?」

「大切な人を守りたい。でも私の一番大切な人は、死にました。私のせいで」

 大切な、私の妹。

「……そうか。付き合わせて悪かった。ありがとう」

「いえ。今日のことは他言無用でお願いします」

「ああ」

「ええ」

「ありがとうございます。では、失礼します」

 ぺこりと頭を下げ、その場を去った。

 あなたを失った今、戦う理由なんて存在しない。私は、なんのために戦ってるんだろう? ねえ、華凜(かりん)
 

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