真と偽り
□第3話
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さてと、もうそろそろ隊舎に戻るか。
訓練所を出て隊舎のほうに歩いているとき、誰かが待ち伏せしているのに気づいた。
「……こんなところで何してるんですか? 市丸隊長」
すっと彼の後ろに回り込み、そう挨拶した。
「やっぱばれてしもたか。いやー、いつもみたいに散歩しとったら零ちゃんの霊圧感じてな」
それでここで待っていたと。
「待っているのは構いませんが、もうそろそろ別の場所に移動したほうがいいですよ。吉良副隊長がこちらに向かっています」
相変わらずこの人は何考えてるかわからない。それでもやっぱり隊長格なことはある。ほとんど霊圧を消してるのに私の存在に気づいた。
「せやな。ほな、行こか」
「えっ?」
急に腕を掴まれ、ものすごいスピードでどこかに連れていかれてしまった。
「あの……市丸隊長。なぜ私まで逃げなくてはならないのでしょうか?」
やっと止まったかと思えば、そこは人気のないところだった。
「そう細かいことは気にしんとき」
いや、全然細かくないから。
「私、隊舎に戻りますね」
隊長に怒られる。
「ちょい待ちいや」
腕をぐいっと引っ張られ、そのまま彼の腕の中にすっぽり納まってしまった。
「離してください」
「嫌や」
子どもか。
「怒りますよ」
「嫌や」
嫌しか言わないのか、この人は。
「……目的はなんですか?」
これが他の人なら容赦なく殴るのに。
「あらへんよ。あるとするなら、ただ零ちゃんと一緒におりたいだけや」
はあー。
「いい加減にしてください。私はこれで失礼します」
彼の腕の中から脱出し、ぺこりと頭を下げてそう言ったあと、猛スピードで隊舎に戻った。
はあー、あの人の相手は疲れる。