過去と現実と未来と
□第3話
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風が髪を撫でる。
やっぱりここは落ち着く。生徒は一切入ってこないし、夜だから余計に静かだ。
「こんなところにいると風邪を引くよ(どうしてこの子がここに……?)」
木の上でぼんやりしていると、その下から突然声が聞こえてきた。
「鳴海先生……」
なんでここにいるの?
「門限はとっくに過ぎてるし、ここは侵入禁止だよ?」
「すみません。慣れない場所で眠れなくて散歩してました」
ストンッと飛び降り、そう言い訳を口にする。
「そう。まあ気持ちはわからなくはないけど、門限は守ってね」
「はい、気をつけます。では、失礼します」
「ねえ、海夜ちゃん」
彼の横を通り過ぎた時、そう呼び止められた。
「はい」
「安室海夜って子を知らない?」
……っ!
「……さあ? 誰ですか?」
落ち着け、冷静に。
「僕の先輩なんだけどね、海夜ちゃんにそっくりなんだ。雰囲気とか喋り方とか」
「……へえー。先生の先輩ということはこの学園の卒業生ですか?」
「卒業はしてないよ。ある日突然、姿を消したから」
……っ、こいつ……。
「そうなんですか。でも残念ながら存じ上げませんね」
「あははっ、だよね。ごめんね、変なこと聞いて。おやすみ」
「おやすみなさい」
そう言い、寮へと足を進めた。
落ち着け。あいつが私のことを覚えているということは少しずつアリスが解けかけているということ。私の姿を見ても何も言わないということはまだ完全に解けたわけではない。厄介なのは解けかけている状態でアリスを使うと相手の脳に負担をかけかけないということ。それは解けた状態でも然り。ちっ……まだ入って1週間も経ってないのに……。