小説

IF.F
4ページ/5ページ




目が合えば、手が届けば



「アガットみてみて! これ僕が収穫したの!」
「おー、偉いぞ」


駆け寄ってきた少年の頭を、アガットさんはぐしゃぐしゃと撫で付ける。

少年の頭はたちまちボサボサになっていったが、
少年も嬉しそうな表情を浮かべていて、
アガットさんはやっぱり兄なんだなぁ、と実感していた。

今日はラヴェンヌ村で一泊させてもらうことになった。

陽が落ちる前に村の様子を確認しておきたい、
と言うアガットさんにご一緒して村の中を巡っている。

アガットさんに十分撫でられた少年は、ふと隣に立つ私を見上げた。


「お姉さんだれ? アガットの恋人?」
「マセてきたな・・・ちげーよ、フィアナは仲間だ仲間」
「ゆーげきしの?」
「大体そんなもんだ」


彼は「ほら、お前んちそろそろ飯だろ」と少年に帰るように促す。
少年は素直に頷き、バイバーイと大きく手を振って帰路に付いた。

一息つくアガットさんの隣で、
先程のやり取りを反芻し「ふふ」と笑みを零す。


「どうした?」
「アガットさんにはっきり仲間と呼んでもらえたのが嬉しくて」


2人きりで話すのが、ぎこちなかったり気まずかったりした時期を思い返す。
警戒心剥き出しのアガットさんに反抗的な物言いを返した、王都の港での話。

普段通り話せるようになったのは休暇明けからだし、
はっきり仲間と呼ばれたのは、今のが初めてだった。

私の言葉に、勿論心当たりのあるアガットさんは、
「あ〜・・・」と苦々しい声色で、頭をがしがしと掻く。


「あん時は、わりぃな。 んな馬鹿な話があるかと」
「いいんです。 皆は不思議と納得して受け入れてくれたけど、
 あの時のアガットさんは正しかったので」


『蛇』ともあろう犯罪組織に、一般人が居候だなんて普通はありえない。
直前にはレンちゃんが執行者として見事な手腕を見せていた。

警戒も、疑念も、必要だったし当然だと思っていた。


「・・・フィアナは、まだ剣帝と一緒に居んだな」
「彼に断られたらやめるつもりです」
「つーか剣帝が許してる方が気になる。 なんか言われてねぇのか?」

「『離れる気がないなら、俺の手が届く場所に居ろ』とだけ」
「んだそりゃ、しっかり独占欲じゃねーか」
「そんな大層なものじゃないと思いますよ。 役目だって言ってたから」


束縛も監視も利用もされず、寧ろ私の好きなようにさせてくれて。
それが魔獣の出る場所なら一緒に付いてきてくれるだけ。

それで充分だった。 最初は守られる期待すらしてなかったから。

喫茶店のテラスに腰掛ける彼にちらりと視線を投げる。
数秒も待てば、視線に勘付いたのか目が合った。

笑みを見せて手を振るフィアナを一瞥した後、
彼は特にそれ以上の反応を見せるでもなく、手元の本へと視線を落とした。


「アガットさんと大型魔獣討伐に行くと言ったら、多分見送ってくれますよ」
「・・・成程な」
「拒まれないのをいいことに甘えてるのは私の方、」





(意外と悪い男だなアンタ)
(・・・何を聞いたか知らないが、
 フィアナが自分の意思で俺に付いてきてるだけだろう)
(悪い気はしてないから置いてんだろーが、お前には勿体ねーぜ)
(フ・・・同感だ)

(フィアナも大概物好きだよなぁ)
(好きにさせたらいい。 チェック)
(クソがよ)
(中盤が雑だし詰めも甘い。 フィアナの方がまだ手強いぞ)



 
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ