小説

IF.F
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今は彼女、ただ一人だけ



「あら珍しい光景だこと」
「・・・『銀閃』シェラザードか」


ロレントに滞在して4日、フィアナと合流してから2日目の朝。

日陰になっていたベンチに腰を下ろし、新聞を読んでいたレーヴェは、
近付く靴音と声を掛けた主に視線を投げた。

彼の隣には、フィアナがレーヴェの肩を借り、寄りかかって眠っている。

訪れた者にも気付かず寝息を立てる彼女を一瞥したシェラザードは、
その様子を微笑ましそうにくすりと1つ笑みを零した。


「のんびりプライベートを過ごす姿は初めて見るわ。 フィアナはお昼寝?」
「フ・・・眠気を忘れるほど面白い小説だったと」
「あらあら、徹夜でもしたのかしら?」


ちゃんと寝ないとお肌に悪いのよ、と呟きながら、
シェラザードは眠るフィアナの頬をつつく。

ちょっかいを掛けられても起きる気配のない彼女は余程眠かったのだろう。
宿の借りた部屋から出てきた瞬間から、眠そうに目元を擦っていた。

外まで出てきたはいいが、眠気も限界だったのか足元が覚束ない。
危なっかしくて座らせたのは数十分ほど前の話だった。

シェラザードは曲げていた背筋を伸ばし、2人の姿を視界に収める。
そして不意に「良い関係なのね」と柔らかく告げた。


「結社に属し、剣帝と呼ばれ、圧倒的な強さを私達に見せつけた貴方が、
 彼女に肩を貸して、その距離を許しているんですもの」


目を細めるように穏やかな笑みを見せる。
シェラザードの様子を横目に、レーヴェは息を吐くと同時に瞼を伏せた。


「・・こんなところで油を売ってていいのか? 仕事中だろう」
「あ、そうそう。 黒と白の毛色をした犬を見てない?」


こーんな大きさの、とシェラザードは両手で大きな円を描いた。

成程、迷子犬の捜索で歩き回っていたのか。

レーヴェは会話の最中、不意に視線をどこかへと流した後、
シェラザードとフィアナの間から見える数アージュ先の通路を指した。


「あれでは?」
「あぁっあの子よ!! ありがとう! このお礼はまたいつか!」


シェラザードが振り返って認識した矢先に犬は死角に入り、
彼女は見失うまいと慌てながらバタバタと走り去って行く。

その後ろ姿を見送りながら、レーヴェは僅かに口を開く。


「・・・・別に礼は要らないが」





(・・・いま、シェラさんが、いたような・・・?)
(犬を追いかけて行った)
(いぬを・・・)





 
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