小説

IF.F
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女王の謁見に応じよ剣帝



傷が癒えたら女王陛下との謁見に応じるよう命じられていた。

日常生活に支障が出ない程度に回復し、
親衛隊の者に謁見を応じる旨を伝えると後日、日時指定を受けた。

指定の日時、場所に到着すると親衛隊の者がおり、
案内されたのは謁見の間ではなく女王宮。

処罰内容を告げるにしては妙だと思いつつ、
クーデター以来である2度目の地を踏む。

階段を上り、女王の部屋の前まで。

親衛隊が扉を3度ノックし「かの者を連れてまいりました」と告げると、
部屋の中から「どうぞ」と返ってくる。

開かれた扉から風が吹く。
開け放たれたバルコニーの扉を前に、アリシア女王が微笑んでいた。


「天気もよろしいのでお茶でもいかがですか?」


クーデターの際に遊撃士達と争ったバルコニーには、
パラソルが立てられ2人分の椅子が向かい合っていた。


「・・・お受けしよう」







なんとも奇妙な空間だ。
出されたカップの茶を一口啜りながら、レーヴェは心の中でそう呟いた。

つい先日まで組織に属し、リベールを脅かした一味である者と、
国の頂点である女王陛下ともあろう御方がサシで茶とは。

女王の部屋に1人、親衛隊が待機しているだけで、
ちょっとやそっとの声量では会話も第三者に届きそうにない。


「身喰らう蛇を脱退された、とお聞きしました」
「生憎と正式な手順は踏んでないが・・・
 あの組織は執行者であることを強制しない」


事実上の脱退だな、と告げると女王は「そうですか」と柔く微笑む。

女王宮の屋根に留まった小鳥がチチチ、と囀る。

不意に女王が手にしていたカップをゆっくりとテーブルに落とした。
その動作1つで、場に僅かに緊張が走る。


「女王として、国を脅かした者をお咎め無しと見逃すわけにはまいりません」
「・・・ごもっともだ」
「しかしリベールが組織に身を堕とす貴方を生んだ、という非もあります」


女王の告げる言葉に、返事をせず耳を傾ける。


「まずは二度とリベールに刃を向けないという約束を。
 そして今後リベールが力を欲した時、貴方の力をお借りすることで、
 今回の精算とさせていただくのはいかがでしょうか」
「・・・借りるとは、具体的に言うと?」

「主な依頼内容は遊撃士の請け負う荒事に近しいものです。
 例えば賊の捕縛、大型魔獣の討伐、軍へ戦闘指南など。
 時には遊撃士と合流することもありましょう。 報酬は応相談で」


・・・遊撃士の名を出すことで、国家間の政治にはあくまで中立で。

でなくともエレボニアとカルバードの両国をまとめあげる、
アリシア女王の手腕、悪いようにはされないのだろう。

寧ろ剣帝レーヴェがこの国に振り撒いたものを数えれば、
甘いとしか言えぬほどの温情すぎる計らい。

・・・いや、『剣帝レーヴェが今後敵に回らない』こと。
そしてその『剣帝レーヴェ』が、いざという時にはリベールに協力する。
という確約さえあれば、国としては充分なのか。

これが平気で約束を反故にする人間であれば、きっと別の措置になっていた。

しばらく思考を巡らせ、今更断る理由もないと僅かに息を吐く。


「・・・承知した。 リベール国内に滞在してるとは限らないが、
 アリシア女王陛下及びクローディア王太女の命に限り馳せ参じよう」
「結構です」


彼から了承の言葉を引き出せた女王は、雰囲気を和らげ目を細める。


「今後はどうされるご予定なんですか?」
「そうだな、しばらくは余生を楽しむさ」
「余生だなんて、まだお若いのに」


笑みを零すアリシア女王に彼は幾度か瞬き、瞼を伏せる。

答えを探すために、人々に問うために、結社に属していた。
答えなど無いのだと、問い続けることを考えていた。

目的がなくなった今、大した欲求もなければ次なる目的もないが、
偶然残った命の傍らには、拾いものの少女が居る。


「・・・フィアナが帝国に行きたいと言っていた。 好きにさせたい」


瞼を開けた視線の先に居る女王は、穏やかに笑っていた。





(フィアナさんとの付き合いは続けられるのですね)
(あの女が飽きるまではな)
(彼女が貴方の元を離れる想像はあまりできませんが・・・)
(フ・・・同意見だ)

(風邪で倒れたのを保護したのが出会いだとか?)
(・・・本人の許可なく別所に移動させた時点で人攫いだと思うが)
(ふふ、認識の相違ですね)





 
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