小説
□IF.F
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女王の謁見に応じよ剣帝
傷が癒えたら女王陛下との謁見に応じるよう命じられていた。
日常生活に支障が出ない程度に回復し、
親衛隊の者に謁見を応じる旨を伝えると後日、日時指定を受けた。
指定の日時、場所に到着すると親衛隊の者がおり、
案内されたのは謁見の間ではなく女王宮。
処罰内容を告げるにしては妙だと思いつつ、
クーデター以来である2度目の地を踏む。
階段を上り、女王の部屋の前まで。
親衛隊が扉を3度ノックし「かの者を連れてまいりました」と告げると、
部屋の中から「どうぞ」と返ってくる。
開かれた扉から風が吹く。
開け放たれたバルコニーの扉を前に、アリシア女王が微笑んでいた。
「天気もよろしいのでお茶でもいかがですか?」
クーデターの際に遊撃士達と争ったバルコニーには、
パラソルが立てられ2人分の椅子が向かい合っていた。
「・・・お受けしよう」
*
なんとも奇妙な空間だ。
出されたカップの茶を一口啜りながら、レーヴェは心の中でそう呟いた。
つい先日まで組織に属し、リベールを脅かした一味である者と、
国の頂点である女王陛下ともあろう御方がサシで茶とは。
女王の部屋に1人、親衛隊が待機しているだけで、
ちょっとやそっとの声量では会話も第三者に届きそうにない。
「身喰らう蛇を脱退された、とお聞きしました」
「生憎と正式な手順は踏んでないが・・・
あの組織は執行者であることを強制しない」
事実上の脱退だな、と告げると女王は「そうですか」と柔く微笑む。
女王宮の屋根に留まった小鳥がチチチ、と囀る。
不意に女王が手にしていたカップをゆっくりとテーブルに落とした。
その動作1つで、場に僅かに緊張が走る。
「女王として、国を脅かした者をお咎め無しと見逃すわけにはまいりません」
「・・・ごもっともだ」
「しかしリベールが組織に身を堕とす貴方を生んだ、という非もあります」
女王の告げる言葉に、返事をせず耳を傾ける。
「まずは二度とリベールに刃を向けないという約束を。
そして今後リベールが力を欲した時、貴方の力をお借りすることで、
今回の精算とさせていただくのはいかがでしょうか」
「・・・借りるとは、具体的に言うと?」
「主な依頼内容は遊撃士の請け負う荒事に近しいものです。
例えば賊の捕縛、大型魔獣の討伐、軍へ戦闘指南など。
時には遊撃士と合流することもありましょう。 報酬は応相談で」
・・・遊撃士の名を出すことで、国家間の政治にはあくまで中立で。
でなくともエレボニアとカルバードの両国をまとめあげる、
アリシア女王の手腕、悪いようにはされないのだろう。
寧ろ剣帝レーヴェがこの国に振り撒いたものを数えれば、
甘いとしか言えぬほどの温情すぎる計らい。
・・・いや、『剣帝レーヴェが今後敵に回らない』こと。
そしてその『剣帝レーヴェ』が、いざという時にはリベールに協力する。
という確約さえあれば、国としては充分なのか。
これが平気で約束を反故にする人間であれば、きっと別の措置になっていた。
しばらく思考を巡らせ、今更断る理由もないと僅かに息を吐く。
「・・・承知した。 リベール国内に滞在してるとは限らないが、
アリシア女王陛下及びクローディア王太女の命に限り馳せ参じよう」
「結構です」
彼から了承の言葉を引き出せた女王は、雰囲気を和らげ目を細める。
「今後はどうされるご予定なんですか?」
「そうだな、しばらくは余生を楽しむさ」
「余生だなんて、まだお若いのに」
笑みを零すアリシア女王に彼は幾度か瞬き、瞼を伏せる。
答えを探すために、人々に問うために、結社に属していた。
答えなど無いのだと、問い続けることを考えていた。
目的がなくなった今、大した欲求もなければ次なる目的もないが、
偶然残った命の傍らには、拾いものの少女が居る。
「・・・フィアナが帝国に行きたいと言っていた。 好きにさせたい」
瞼を開けた視線の先に居る女王は、穏やかに笑っていた。
(フィアナさんとの付き合いは続けられるのですね)
(あの女が飽きるまではな)
(彼女が貴方の元を離れる想像はあまりできませんが・・・)
(フ・・・同意見だ)
(風邪で倒れたのを保護したのが出会いだとか?)
(・・・本人の許可なく別所に移動させた時点で人攫いだと思うが)
(ふふ、認識の相違ですね)