小説

SC L
4ページ/18ページ




王都警備の派遣遊撃士



不戦条約をこれから結ぶという大事な時期に、
結社の連中がやらかしたと聞いた。

連中と言っても物事を動かしたのはたった1人の少女だと言う。

最初の予定以上に強化された兵士達の警備、
遊撃士視点での警備も頼みたいと連絡があったそう。

連絡を受けたエルフリーデはルーアンを発ち、王都グランセルの地を踏んだ。

遊撃士協会グランセル支部の受付であるエルナンとの挨拶もそこそこに、
とりあえず地図覚えるからと城下町を巡り巡った初日。

2日目からは本格的に警備員として早朝から王都を練り歩いた。

遊撃士協会からの警備として出会った兵士達に挨拶もしつつ、
屋内のマーケットにもちょくちょく顔を出しつつ。

大通りに面した居酒屋で昼ご飯を腹に収め、さて午後も頑張るかと数時間。


「エルさん、そろそろお休みになられては・・・」
「へ?」


3人の兵士に呼び止められたかと思いきや、
予期せぬ言葉に思わず間抜けな声が出た。

休憩の促しに他2人の兵士もこくこくと頷き同意を見せている。


「朝からずっと歩きづめではありませんか?
 我々も居ますので休憩を取られてはいかがでしょう?」
「え、うーん・・・気持ちは嬉しいけどそんな疲れてないんだよね」
「あぁ・・流石遊撃士・・・」
「こら納得すな」

「遊撃士って体力お化けな人多くないですか?」
「体力お化けて・・・」
「まぁ正遊撃士ほど何かとあちこち渡り歩くものねぇ」
「こっちも納得されてしまった・・」


繰り広げられる会話に呆れた様子を見せた兵士にエルフリーデが小さく笑う。
1番冷静そうな兵士はすぅ、と一息付くと「それはさておき、」と話を戻す。


「気を張り詰めすぎもあまり良くないですよ」
「王家御用達って言われてるアイス屋あるんです。
 まだ今日が終わるには時間もありますし、ここらで一息」


兵士の声色を耳に、エルフリーデは少し悩んだように視線を逸らした。

・・・本気で身を案じた促しだな・・・
妨害の脅迫状とやらは結局嘘だったからこの後は何も起きない・・・か?

・・まぁいいか。 彼女は笑みを見せて伏せた瞼を持ち上げた。
傾き始めた陽が彼女の紫色の瞳に射し込む。


「・・ならお言葉に甘えてそうしようかな。 その店どこ?」
「百貨店の近くの・・塔・・・」
「あぁ、あれアイス屋だったのか。 おっけー、ありがとう」







訪れたアイス屋でオススメのものを注文する。
受け取って一口齧ってから百貨店近くの休憩所ベンチへと向かった。

誰も居ないベンチに1人腰を下ろして脚を組み、続けてアイスを口に運ぶ。
あ、美味しいなこれ。 成程、王家御用達。

百貨店がある分、そこそこ人が多い区画かと思っていたが、
ベンチ周辺は意外と静かに感じる。 喧騒が遠い。

・・・・まだ昼下がり、だろうか?
夕方と呼ぶには早い時間な気がする。

そういえば執行者案件となった波止場は出入り禁止になっていたな。
巨大な機械がいくつか動いていたとの話だけど被害は大丈夫だろうか。

それらと相対した遊撃士達は・・・エルナンがロレントって言っていたな。
なんだっけ。 霧?

ロレントにはまだ行ってないな。 ツァイスもまだか。

・・・・・アイスなくなった。

コーンを包んでいた空っぽの紙をぐしゃりと握り潰し、
数アージュ先に設置されていたゴミ箱に放り投げる。

あ、風向き計算していな・・・いや入ったわ、大丈夫。

つーか休憩って何分くらい? もしかして数時間単位での促しだった?
だとしたら下手に早く戻るとそれはそれで怒られそうだな。

・・・静かだしその気になれば眠れそうだ、仮眠でも取る?
一息付いて組んだ脚に一瞬視線を落としてから目を閉じる。

そういやレーヴェの顔は意外と割れてないんだな。

・・いや、クーデター時の城は情報部がほぼ占拠してたという話だったな。
メット付きの仮面を付けていたとの話だから素顔を見たものは極わずかか。

・・・ん? そういやセピス溜まっている気がするな。
工房行ってクオーツ作ってもらうか?

記憶の整理で身の回りや受け取った情報をあれこれと思い返している矢先、
休憩所の傍らでふと人の気配がした。

通り過ぎるかと思われた気配は休憩所に立ち入る。


「エルフィ」
「ん」


呼ばれた名にゆっくり瞼を持ち上げて見上げれば、
『剣帝』レーヴェがそこに立っていた。

吹き抜ける風に『剣帝』のコートがばさりと揺れる。


「・・・や」
「・・・」


1度会えば2度目はそう難しくないと思っていたが、
あながち間違っちゃいないようだ。



(よく似た紫色の瞳同士の視線が交わる)

(相手の姿を確認し柔く笑みを浮かべた口元と)
(声を掛けておきながら口を閉ざす『剣帝』と)





 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ