小説

SC L
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街道道中と混乱の民衆



夜の街道を軽快に駆ける影。

両手にそれぞれ剣を携え、街道に溢れる魔獣を斬り伏せていた。
剣を薙ぐように切り払っては、その場を蹴り魔物を2匹跳び越す。


「(切れたオーブメントは魔獣の格好の餌。
 夜であることも相まってか見たことない魔獣も居るな)」


自らを狙おうとする魔獣の姿を横見に魔獣を飛び越し、
地に足の裏を付けた彼女はまた街道を駆け出した。

全ての魔獣を相手するには無理がある。
ならば行く手を阻む最低限の魔獣だけ斬り伏せて。

エルフリーデが向かって行ったのは、
アイナ街道から分岐した道の先にある紺碧の塔だった。







初回が行けたなら2回目も問題ないだろう。
相変わらず上がったままのラングランド大橋を駆け上り、対岸へと渡る。

橋のすぐそばに遊撃士協会があるため、
対岸へ渡りきる前に協会の様子が伺えた。

オーブメントが使えないのはどうなっているのかと、
問い合わせに来た人々が案の定群がっている。

ギルドの扉の前に居た問い合わせに追われるジャンの元へ、
群がりを掻き分けて中央へ向かう。

ジャンがエルフィを認識するとはっとした顔をし、
彼女も認識されたことを確認し、腕を交差させてバッテンの意図を伝えた。


「あ、あぁエルおかえり! どうだった?」
「やっぱダメ。 王国全体的にオーブメント使えないみたい、
 明かり1つ見えやしないわ」
「うーん、やっぱり国内全体的に影響受けてるか・・
 因みになんだけど、どこまで見に行ったの?」

「紺? なんとかの塔」
「この暗さで紺碧の塔まで!?」
「夜目が利くからって理由でジャンが向かわせたんでしょ?」


肩を上げて何を今更と言わんばかりの彼女に、ジャンは思わず口を開ける。
確かにそう言ったけれど。

月の明かり、あの謎の浮遊物体の放つ光も届かぬ塔の中、
魔獣も蔓延るあの地を1人で。

ジャン自身は夜目が利くという感覚が分からないため、
それがどれほどのものかを把握できないのが実際のところだが。

ギルドの前に群がる人集りは数が減る気配は無く、
寧ろエルフィが出現したことによりどよめきが起こっていた。

見たことない人だ。 遊撃士の人?
それよりこの件はどうなってるの?

人混みから跳ね除けられ、ジャンと共に人集りに囲まれるエルフリーデ。
彼女は腰に下げていた剣に手を添えた後、民衆へと手の平を向けた。

それが合図となったか喧騒が少しだけ止み、手を下ろした。


「エレボニア帝国から来ました、A級遊撃士のエルフリーデと申します」


会釈をするように小さく頭を下げるエルフリーデ。
エレボニア帝国という名に民衆達が少なからず反応を示した。

10年という年月、戦争した国の名だ。

軍の者ではない、戦争に直接関わってはいない相手だと認識していても、
頭では上手く理解しきれない場合もある。

エルフリーデは落ち着いた様子で言葉を続けた。


「混乱の中、他国、それもエレボニアの人間は
 不安もお有りかと思いますが、協会は諸事情で人手不足のため
 私がこちらの地で活動することお許しください」


湖上の物体が放つ光以外光源の無いこの暗がりで、
集まった人々を1人1人、見つめるように顔を確認する。

紫色の瞳に、街人が映っていった。


「現在私達は全力を以てオーブメント導力停止の原因、
 湖上に出現した物体やその関連性の調査に当たっております。
 ご不便をお掛けいたしますがもうしばらくのご辛抱、ご理解願います」


そう伝え終えるとエルフリーデはゆっくりと頭を下げた。
銀色の髪が地に向かって揺れている。

人々の動作で起こる服の擦れや雑音、ざわめきを耳に
エルフリーデは地をじっと見つめていた。


「やだ・・・エル、驚くほど敬語似合わない・・・」
「・・それは今でなきゃいけない台詞だった?」


隣から聞こえてきた本心だろうジャンの言葉に、
頭を下げたまま思わず肩を上げて笑ってしまった。



(不都合がありましたら遊撃士協会へご連絡ください。
 私もしばらくはこちらに滞在しますゆえ、手が空き次第助力に参ります)


(なんでだろう・・・僕の方がずっとルーアンに居たのに、
 エルが説得した方が皆の理解が早い・・・負けた気がする・・)
(なんでよ。 付き合い浅いながらにジャンはよくやってるなって思うよ)





 
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