小説
□SC L
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街道道中と混乱の民衆
夜の街道を軽快に駆ける影。
両手にそれぞれ剣を携え、街道に溢れる魔獣を斬り伏せていた。
剣を薙ぐように切り払っては、その場を蹴り魔物を2匹跳び越す。
「(切れたオーブメントは魔獣の格好の餌。
夜であることも相まってか見たことない魔獣も居るな)」
自らを狙おうとする魔獣の姿を横見に魔獣を飛び越し、
地に足の裏を付けた彼女はまた街道を駆け出した。
全ての魔獣を相手するには無理がある。
ならば行く手を阻む最低限の魔獣だけ斬り伏せて。
エルフリーデが向かって行ったのは、
アイナ街道から分岐した道の先にある紺碧の塔だった。
*
初回が行けたなら2回目も問題ないだろう。
相変わらず上がったままのラングランド大橋を駆け上り、対岸へと渡る。
橋のすぐそばに遊撃士協会があるため、
対岸へ渡りきる前に協会の様子が伺えた。
オーブメントが使えないのはどうなっているのかと、
問い合わせに来た人々が案の定群がっている。
ギルドの扉の前に居た問い合わせに追われるジャンの元へ、
群がりを掻き分けて中央へ向かう。
ジャンがエルフィを認識するとはっとした顔をし、
彼女も認識されたことを確認し、腕を交差させてバッテンの意図を伝えた。
「あ、あぁエルおかえり! どうだった?」
「やっぱダメ。 王国全体的にオーブメント使えないみたい、
明かり1つ見えやしないわ」
「うーん、やっぱり国内全体的に影響受けてるか・・
因みになんだけど、どこまで見に行ったの?」
「紺? なんとかの塔」
「この暗さで紺碧の塔まで!?」
「夜目が利くからって理由でジャンが向かわせたんでしょ?」
肩を上げて何を今更と言わんばかりの彼女に、ジャンは思わず口を開ける。
確かにそう言ったけれど。
月の明かり、あの謎の浮遊物体の放つ光も届かぬ塔の中、
魔獣も蔓延るあの地を1人で。
ジャン自身は夜目が利くという感覚が分からないため、
それがどれほどのものかを把握できないのが実際のところだが。
ギルドの前に群がる人集りは数が減る気配は無く、
寧ろエルフィが出現したことによりどよめきが起こっていた。
見たことない人だ。 遊撃士の人?
それよりこの件はどうなってるの?
人混みから跳ね除けられ、ジャンと共に人集りに囲まれるエルフリーデ。
彼女は腰に下げていた剣に手を添えた後、民衆へと手の平を向けた。
それが合図となったか喧騒が少しだけ止み、手を下ろした。
「エレボニア帝国から来ました、A級遊撃士のエルフリーデと申します」
会釈をするように小さく頭を下げるエルフリーデ。
エレボニア帝国という名に民衆達が少なからず反応を示した。
10年という年月、戦争した国の名だ。
軍の者ではない、戦争に直接関わってはいない相手だと認識していても、
頭では上手く理解しきれない場合もある。
エルフリーデは落ち着いた様子で言葉を続けた。
「混乱の中、他国、それもエレボニアの人間は
不安もお有りかと思いますが、協会は諸事情で人手不足のため
私がこちらの地で活動することお許しください」
湖上の物体が放つ光以外光源の無いこの暗がりで、
集まった人々を1人1人、見つめるように顔を確認する。
紫色の瞳に、街人が映っていった。
「現在私達は全力を以てオーブメント導力停止の原因、
湖上に出現した物体やその関連性の調査に当たっております。
ご不便をお掛けいたしますがもうしばらくのご辛抱、ご理解願います」
そう伝え終えるとエルフリーデはゆっくりと頭を下げた。
銀色の髪が地に向かって揺れている。
人々の動作で起こる服の擦れや雑音、ざわめきを耳に
エルフリーデは地をじっと見つめていた。
「やだ・・・エル、驚くほど敬語似合わない・・・」
「・・それは今でなきゃいけない台詞だった?」
隣から聞こえてきた本心だろうジャンの言葉に、
頭を下げたまま思わず肩を上げて笑ってしまった。
(不都合がありましたら遊撃士協会へご連絡ください。
私もしばらくはこちらに滞在しますゆえ、手が空き次第助力に参ります)
(なんでだろう・・・僕の方がずっとルーアンに居たのに、
エルが説得した方が皆の理解が早い・・・負けた気がする・・)
(なんでよ。 付き合い浅いながらにジャンはよくやってるなって思うよ)