小説

SC L
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2人行われる帝国会話



オリビエに誘われ入った一室。

テーブルが1つと椅子2つ、それから2段ベッド。
休憩スペースみたいなところだろうか。

軽く辺りを見渡すうちにオリビエはトランクを机の上に置き、
椅子を引いて腰を下ろした。

そして彼は両腕を後ろに回してまとめていた髪を解くと、
追加で深い溜息を1つ吐き出した。


「はーぁ、全くやってくれるよ、あの宰相は」
「・・今回の軍勢は鉄血宰相の仕業?」
「その通り。 しかも悪い方のニュースだ、『蛇』と繋がってる」
「・・・冗談でしょ・・・」


額に手を触れて、壁に凭れかかった。

あぁ・・そんな厄介なとこ同士繋がらないでほしかった。
ただでさえ結社は因縁があるというのにそこまで来てしまったら。

呆れる様子を一切隠さない私に、オリビエは小さく「ふふ」と笑った。


「・・結局オリビエの意志は変わんないんだ?」
「うん。 寧ろ強くなったよ」
「そっか」


・・前から言ってたなぁ、この人は。
宰相のやり方は美しくないって、彼と戦うことを望むって。

だからって。


「だからってさぁ〜・・・」
「ふふふ。 エル君は本当に頼りにしているんだよ。
 ハーメル出身で、遊撃士で、彼を怪物と知る君にはね」
「・・・買いかぶりすぎじゃない?」

「やだなぁ、エル君。 僕は本当に思ってるのに」
「なめないでよ、アンタが冗談で言ってるかどうかくらいは分かるわ」
「やだ・・・僕エル君に愛されすぎ・・!?」
「分かったから」


はっ、とした様子で口元を手で覆い、
軽く赤面させるオリビエに再度呆れたように小さく笑う。

腕を組み直し、今度は私が溜息を付いた。


「・・この件に片が付いたら、私は帝国に戻る」
「うん」
「もし必要なら、遊撃士なりに手伝ってあげるよ」
「・・・ふふ、ありがとう。 だからエル君好きだよ」

「ん。 まぁできないこともあるけどね」
「それはそれさ。 君の立場まで危ぶまれることは決してしないよ」
「・・無茶厳禁ね」
「どの口が言うんだい?」


彼は椅子に座ったまま両腕を横に広げ、
肩を上げながら大袈裟に呆れた様子を見せた。

・・いや、私のは死なない程度の無茶だもの。
自分の命顧みないほどの無茶はしてないわ。

・・・大きく出たなぁ、この皇子とやらは、本当に。
彼の言い分も分からないでもなくて。


「・・どっかの誰かみたいに美に固執してるわけではないけど」
「おや?」
「何事も綺麗に収まるのがベストだしね」


目を伏せ吐いた溜息。 あぁ、今日何度目だ。
違う、オリビエが居るから溜息が多いのか。

腕を組んだまま視線を返す私に、彼は小さく微笑んだ。

・・ふと、オリビエは突然思い出したような表情をする。


「そういえば。 君からの質問の意図は解けたよ、あれは既視感だね」
「あ、会ったのは聞いたよ。 なんか言ってた?」
「・・・これは言うべきかな?
 君が死なない程度に様子見てやってくれ、ってさ」
「・・・兄貴らし」


眉寄せて更に息を吐き出した。

兄貴らしい。 そしてその上で10年も会っていなかった、
私という人間をそこそこ理解してる。 ビックリした。

無茶する癖残ってるのバレてたか。
・・・いや、ルーアンで会った時「無茶する奴だな」って言われたな。

あそこで再確認させてしまったか、やらかした。 何をだ。


「・・っち、10年離れたって家族かよ」


視界の端にチラチラ映るアッシュブロンドの髪の頭をガシガシと掻いた。
盛大に息を吐き出す私の口角は、若干上がってるのだろう。

その証拠と言わんばかりに、穏やかに微笑んでるオリビエの表情が伺える。

結局は、お互いに当時の名残があるのだ。



(君は一人っ子だとばかり思っていたよ)
(実は私も)
(おや?)
(本当は兄なんて居なかったんじゃないかって思ってたの)

(・・・でも居るんだろう?)
(そう。 何があっても忘れられないような兄がね)
(『剣帝』だものねぇ)
(『剣帝』なんだよなぁ・・)





 
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