小説

SC L
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遊撃士になるきっかけ



遊撃士を目指す兄が居たから、私は遊撃士を知った。
兄が稽古をしてたから、真似るように私も練習し始めた。

当時の私は剣の練習こそすれど、遊撃士を目指していたわけじゃなかった。

子供が少ない村の、遊びの一種くらいの認識、だったように思う。
・・まぁ言うて当時12歳くらいだし、遊び感覚でも仕方ない。

子供とは言え負けん気はあったから、兄貴を負かすつもりで練習してたけど。

ハーメルで過ごした日々が、人生で一番楽しかった。
今の生活も充実してるし満足もしてる、けど、あの時には敵わない。

戦役のきっかけとなった、ハーメルへの襲撃は
一夜にして私達の全てを奪っていった。

良くしてもらった近所に住む人も、カリンも・・・皆死んで。
戦争起こすためだけにこの村が襲われたなんて。

・・・流石に恨んだよ。 国も、政府も、汚い大人達も。

更に驚いたのは、レーヴェがヨシュアを連れて
結社への勧誘にオーケーを出したこと。

ヨシュアの様子は・・私も見ていたよ。 抜け殻みたいだった。

どうしようもなかったのは確かだけど、
時間が癒やしてくれるかも、とも思ってたんだよ。

ヨシュアの反応は仕方ないとも思ってたの。
・・あんなに小さかったのに、一夜でいろいろあったし。

私が問題としたのはレーヴェの方だよ。

遊撃士になる夢は? 皆を守ると言ったその口と腕は?

素性も分からないような組織に、あんたともあろう人間が手を貸すの?
出会ったばかりの信用に足らない大人に、ヨシュアを預けるなんて正気なの?

嗚呼、人間って一瞬でこんなにも変わるんだ。
長年の夢だって、軽率に捨てられるんだ。

大人も、血縁であるはずの身近な人でさえ、信用できなくなりそうだった。



「・・・その瞬間、だったかな。 私が遊撃士になろうと、決意したのは。
 守る力の完成を目指す意思と、 ・・・捨てられた夢を拾ったの」


記憶を手繰るように告げられる話に、幾度か紫色の瞳が揺れる。

彼女の話を聞いていたエステルとヨシュアは、
何とも言えぬ表情で、彼女の話を聞いていた。


「だからきっと、私は遊撃士を目指していた頃のレーヴェの姿。
 ・・・レーヴェにしちゃ少々若いし、甘いだろうけどね」


頬杖を付きながら、彼女は口元に自嘲気味な笑みを浮かべる。

なんと声を発していいか、悩むエステルの様子を見てから、
ヨシュアがエルフィを見つめ、ゆっくりと口を開く。


「・・遊撃士になったの後悔してる?」
「まさか。 さっきも言ったけど今の生活充実してるもの」
「それなら、 いいんだけど」

「ただしいて1つ不満挙げるなら・・遊撃士のレーヴェが見たかったな、」
「・・!」
「・・・・」
「・・・なんてね」


そう言いながら彼女は、紫色の瞳を細めて口元を釣り上げた。

到底冗談ではないであろうあの言葉は恐らく本心だ。
・・それが叶わないものであると知りながら。


「はーっ・・・それにしても、」


話を切り替えるかのように、エルフィはその場で大きく背伸びする。
下ろした腕は再度机の上に置かれて、自然な動作で頬杖を。


「レーヴェ強すぎなんだよなぁ、全然力及ばないよアレ・・」
「・・・待って? その口ぶりからすると レーヴェと戦ったの?」
「え? そりゃ勿論」

「・・レーヴェとサシで?」
「は!? あの剣帝とサシ!? いつ!?」
「うわ食いつき凄い。 いつだっけ、えーっと・・・
 あぁ、王立学園で幽霊騒動あったでしょ。 その直後かな」

「・・・・なん、 えぇ・・・聞きたいことはいろいろあるけど・・
 10年ぶりの再会で戦闘になったの・・?」
「だって兄貴と戦うために会いに行ったんだもの」


さも当然と言わんばかりに、エルフィが首を傾げる。
予想外だったのか、呆れたように額に手を当てて目を伏せるヨシュア。

絶句したように口を開けるエステルを見たエルフィが、
面白い物を見たかのように口元を抑えて小さく笑った。


「・・・ガチ戦闘?」
「や? 言うてそんな。 1分くらいだよ。
 私も本気じゃなかったし、向こうも加減してたし」

「ていうか・・・なんのために・・・わざわざ、帝国から・・・・」
「そりゃ兄貴の実力知るためだよね。 挨拶とかそういうのはついで。
 組織のレーヴェより、遊撃士のレーヴェが強いことを証明したかったの」

「・・・エルフィ、ってさ」
「ん」
「無茶する癖、案外治ってないんだね」
「ばか、死なない程度には考えてるわよ」
「バカはどっちだよ・・・」





(あの事件さえなければ、兄貴は今頃きっと凄腕遊撃士だろうし
 もしかしたら私だって、遊撃士以外のものになってたのかもね)
(・・・でも、エルフィのことだし。 やっぱり遊撃士だと思うよ)

(へぇ、なんで?)
(エルフィに合ってるから)
(・・ふふ。 一緒に仕事したわけでもないのに?)
(そうだけど・・・それでも、ってことだよ)





 
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