小説

SC L
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彼女は「夢」そのもの



ヨシュアに連れられてボース支部の2階へと上がってきた。
壁側にあるテーブルと椅子に向かい、テーブルを挟んで各々が席に付く。

数秒ほどの沈黙。 向かい合った対照的な色。
懐かしむように、最初に口を開いたのはエルフィだった。


「何はともあれ・・久しぶりね」
「うん、エルフィも・・元気そうで何よりだよ。
 エルフィも遊撃士だったんだ。 いつから?」

「準遊撃士資格取ったのが17だから、もう5年も前かな」
「ベテランじゃん・・A級って言ってたっけ?」
「今年なったばかりだけどね」


束の間の談笑、話が一区切り付いたのか
話したかったのであろう本題を、彼はゆっくりと口を開く。


「レーヴェと、会ったよ」
「・・・・」


ヨシュアが切り出した言葉に、エルフィの表情が消える。
落とされた視線は冷たくはないものの、読めない瞳をしている。


「・・・いつの話?」
「四輪の塔で起きた話は知ってる?」
「言伝程度には」
「その直前、かな」

「・・何か言ってた?」
「言ってたっていうか・・聞いたんだ。 なんでまだ教授に協力してるのか」
「返事はなんて?」
「自らの望みのため、 ・・・この世を試すためだって言ってたよ」


溜息混じりにそう答えたヨシュアを見つめるエルフィ。
彼女はまた少し目を伏せ、少々呆れたように息を吐いた。


「どう思う?」
「どう思うも何も・・まぁ、下手な嘘吐く人でもないし・・・
 兄貴がそう言ったなら、そうなんじゃない?」
「・・・・」

「正直に1つ言わせてもらえば、私の兄でありながら
 まだ答えの1つも出ないのかってことくらいかな」
「答え、って」
「だって答えなんて目の前に在るもの」
「え?」


疑問符を浮かべ首を傾げる様子を見せた彼に、エルフィは小さく微笑む。


「・・なんでもないよ」
「え、えぇ・・・そこまで言ってはぐらかされるのやだな・・」
「ふふ」


ヨシュアの反応に彼女は笑みを浮かべるものの、
答える気は毛頭ないっと言わんばかりの様子。

彼は諦めたように少しだけ溜息を付いた。


「・・・はぐらかされるなら、話変えていい?」
「ん。 何?」

「エルフィって昔から遊撃士志望だったっけ? 僕が覚えていないだけ?」
「・・昔から・・・まぁ、そうね」
「まぁ? そうね?」


彼女の曖昧な返事に、ヨシュアは怪訝そうな表情で復唱する。
エルフィは少しだけ紫色の瞳を細めて微笑んだ。


「私は夢の姿に過ぎないからね」
「・・・どういう、」


そこまで言い掛けたヨシュアの言葉が止まる。

遊撃士協会、ボース支部の2階。
下の階から誰かが階段を上る音にヨシュアは発言を中断させたらしい。

エルフィも足音に気づいたようで、視線を階段へと見やった。

階段からそろり、と顔を出した明るい茶髪のツインテール。
おずおずと小声で「今、顔出して大丈夫・・?」と聞いたのはエステルだった


「エステル、」
「いいよ、入っておいで」
「ご、ごめん。 話、中断させちゃった?」
「いいよ、急ぎな話してるんじゃないし」


エステルは階段から上がりきり、支部2階へとその姿を見せた。

ヨシュアとエルフィの座るテーブル近くまで
歩いてきたエステルが2人を見比べる。


「何かあった?」
「そんな大きな用事じゃないんだけど。
 私もエルフリーデさんの話が聞きたくなったっていうか、」
「いいよ。 ていうか名前呼ぶのエルかエルフィでいいよ、長いでしょ?」
「あ、ならエルさんって呼ばせてもらおうかな」


呼び方の確定にエルフィは頷くと、辺りを見渡した。
空いている椅子を手繰り寄せ、エステルの元に運ぶ。

エステルは短く礼の言葉を述べると、椅子に腰を下ろした。


「聞きたいことがある?」
「うーん・・あ、そうだ。 『剣帝』の妹ってことはハーメル、の人・・?」
「そうね。 レーヴェ、ヨシュアに続く生存3人目」

「・・・こんなこと言っていいのか迷うんだけど・・
 兄妹なのに辿り着いた場所が随分と真逆・・っていうか、」
「そうね・・これが運命だなんて言うなら、私はその定義を壊したいけど」


自嘲気味に眉を寄せて笑う彼女に、様子を伺うような反応を見せるヨシュア。
やっぱりまずいことを言ったか、と エステルは少し不安そうに頬を掻いた。


「さっきヨシュアの前でも言ったけどね。 私は夢の姿に過ぎないんだ」
「・・夢の姿?」
「当時のね」
「?」


脈絡のない、どこか核心を付けないエルフィの発言に
エステルは疑問符を浮かべた。

全く意味が分からないと言いたげな彼女の表情に、エルフィは小さく微笑む。


「・・・私が遊撃士になりたいと思ったのは本心だよ。
 鍛えられると思ったし、単純に自分に向いていると思ったし」
「うん、」

「でもやっぱり、きっかけは遊撃士を目指していた兄貴かな」
「!」
「・・・!」


エステルとヨシュア、各々が反応を見せた。

表情を変え、少々驚いた顔をしたエステルと。
粗方察しが付いたかのように、口元を覆ったヨシュアと。



(囚われているわけじゃない)
(自分がそれを目指したのは、偽り無く、確かに本心だ)

(でも最近は、自分は彼の夢の姿なのだろうと
 思う日が増えているのも本当なのだ)





 
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