小説

SC L
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『双重』と面会、再会



「導力発明云々のじいさんもってして通信機復旧なんでしょ?
 翌朝見たら湖から船1隻消えてたわよ。 なんで結社の船動くの? は?
 身内のことも相まってふざけんなって感情が凄い・・」
「これこれ、落ち着いてくれ。 そろそろ合流できるのにその顔はいかんぞ」


受付のカウンターを挟み、老人と若い女性が話をしている最中、
遊撃士ギルドボース支部の扉が開き、カランカランと鈴の音が部屋に響く。

割って入るような「こんにちはー」という明るい声での挨拶に、
話を中断した老人が扉へと顔を向ける。


「おぉ、噂をすればじゃ。 ほれ、気を取り直せい」
「・・ん」


ボース支部の受付、ルグランに釣られて、
話し相手だったエルフリーデが扉へと振り向く。

顔を上げた際に揺れるアッシュブロンドの髪に、
今しがた扉を開けて入ってきた人物のうちの1人の動きが固まった。


「え」


入口前で目を見開いて動かない黒髪の少年、ヨシュアに続き
一番先にギルド内に入ってきたエステルが
一歩遅れてエルフリーデへと反応を示す。


「・・・あぁ!! アッシュブロンド!!」


ビシィ! と効果音が付いても可笑しくないほどに
人差し指を向けたエステルに、エルフリーデが口元を押さえて笑う。

ゾロゾロと室内に人が埋まる中、更にシェラザードが口を開いた。


「これは驚いたわね・・・髪も髪だけど、目もあいつと同じ紫色だわ」
「・・へぇ、見ないうちに大きくなったわね。
 なかなか男前になったんじゃない?」


歯を見せて笑いながら、
ヨシュアの胸に軽く握り締めた拳をこつんと当てる。

ヨシュアは瞬きを繰り返しながら、彼女の姿行動を視界に収めた。

動揺しつつも小さく口を動かして、
ようやく言葉が出てきたのは30秒ほど。


「・・・エルフィ?」
「ご名答。 丸10年ぶりね、ヨシュア」


笑みを浮かべたまま、ヨシュアから離れ
彼を含む団体へと一通り顔を向ける。

肩に付くか付かないかくらいのアッシュブロンドの髪と紫色の瞳。

腕、脚の出る動きやすそうな服を着た彼女は
右手を宙に泳がせ、そのままその手を胸元に当ててお辞儀をした。


「エレボニア帝国、遊撃士協会所属A級遊撃士『双重』エルフリーデ
 あなた方が追う結社のNo.U『剣帝』レオンハルトの妹に当たります。
 皆様のご活躍のお噂はかねがね」

「あれま」
「い、妹? 剣帝の?」


驚いたような表情、疑問符の浮かぶ彼女達に向けて
エルフリーデは頷くように笑った。

怪訝そうな表情をしたアガットが、
「はー」と確かな溜息と共に頭をガシガシと掻く。


「古代竜ん時の・・アイツの話はそういうことか」
「? 古代竜?」
「オリビエの奴が剣帝にお前と会ったかと聞いてたんだよ。
 そん時に『双重』の名が挙がってよ」
「ん。 ・・・そっか」


ふ、と口元に笑みを浮かべて納得したかのような表情をし、
頷き1つ見せたエルフィに、更に深い確かな溜息を吐くアガット。


「妹だったのかよ・・・」
「ふふ、妹でした。 オリビエから言われなかった?」
「伏せられてたっつーの・・『双重』の容姿も知らなかったしな」


アガットとエルフリーデのやり取りを聞いていた、
エステルが突然はっとした顔になる。


「あ、あ・・・! あの時の『エル君』って貴女のこと!?」
「あぁ、その呼ばれ方は私だ。 オリビエが世話になったねぇ」
「し、し・・知り合いだったの!?」

「彼とは仕事で何度かね。 放浪癖あるからその捜索がもっぱらかな」
「あ、あぁ・・・凄く・・想像が付く・・・うちにも捜索依頼あった・・・」
「あぁ・・その件に関してはお疲れ様」


苦労を全て察したかのように、労いの言葉を掛けるエルフィ。
数秒して、ふと、彼女は到着したメンバーを見渡した。


「問題のオリビエは?」
「少し前に帝国に帰ったの」
「ん・・そっか。 ちょっと意外だな」


少し考え込むその姿にヨシュアが何度か瞬きを繰り返す。


「・・すみません、彼女と2人で話したいのですが、
 上の階お借りしてもいいですか?」
「おぉ、構わんよ。 残りのメンバーには
 短期の仕事の紹介でもしておこうかね」
「あ、お願いします」

「エルフィ、行こう」
「はいな」


唯一包帯の巻かれていない指先が、
少し陽で焼けた指先を捕まえて小さく引っ張った。


「・・・ヨシュア、当時アンタ結構小さかったけどさ」
「? うん」
「どれくらい私の事覚えてんの?」
「え、突然。 何の話してるの?」

「や、存外子供っぽいなって」
「待って本当に何の話?」



(癖でも、記憶でも)


(はぁー、でもビックリしちゃった。 まさか妹とは・・)
(どうりで若いのにA級に上り詰めるわけだよな)
(クーデターとほぼ同時期、帝国のギルド襲撃事件あったわよね)
(あ、あった。 少しだけ聞いてる)

(そこでカシウスさんと共に一役買うほどの人物だったらしいわよ、
 『双重』エルフリーデって)
(あ、やっぱりめちゃ強いんだ・・・)





 
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