小説

SC L
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彼女は帝国出身である



「やぁ、帝国のお嬢さん。 お一人なら僕と飲み明かさないかい?」


ルーアン市、船員酒場アクアロッサのカウンター席。

すっと後ろから差し出されたワイングラスに瞬き。
顔を上げて見知った顔と揺れた長めの金髪に溜息と笑い1つ。


「やぁオリビエ。 随分と久しぶりだね」
「ああん、僕の口説き文句を総スルーだなんて相変わらずエル君冷たいわっ」
「やー、まともに会話したら疲れるからねぇ。 でもワインは頂くよ」
「エル君ったらちゃっかりさん」


彼の手からワインの入ったグラスを受け取る。
オリビエはそのまま私の隣の椅子を引いて席に座った。


「珍しいところで会うね。 元気にしてたかい?」
「おかげさまで。 オリビエもお変わりないようで何より」

「『双重』の噂はよく耳にするよ。 A級昇格おめでとう」
「ありがとう。 昇格したの割と前だけどね?」
「やん、エル君ってば細かいこと言いっこなーし」


グラス片手にワイン一口。
オリビエが店員に品を注文しているのを横目に小さく息を吐き出した。

対象は、目標は意外と遠かったな。


「オリビエがリベールに来てるのは聞いてたけど、
 ルーアンに居たのね。 ちょっと意外」
「そうかい? 面白いことがあってね。
 エルモ温泉を蹴ってまでしてそちらにお邪魔してるのさ」

「ふぅん。 面白いことってうちのギルド?」
「おや・・・その様子だとエル君も知ってるようだね」


グラスの中のワインを全て飲み干し、テーブルの端に置く。

・・・昨夜その「面白いこと」に含まれてるであろう奴と
刃交わしたなんて話をするのは今は流石にアウトだろう。


「結社には因縁があってね」
「因縁?」

「勧誘されたこともある」
「・・・君がかい?」
「随分と昔の話だけどね」


あの頃と比べると。 ずっと子供だった私も大人になったし、
荒れていた世界は随分と大人しくなったようにも思う。

街は落ち着きを完全に取り戻したし、
多方面に残された傷も大分癒えたことだろう。

それは、きっと良い事なのだ。

戻らないものは数えきれないほどあるこの世界で、
それでも必死に生きようとする人の姿はどれほど美しいことだろう。


「・・・ねぇ、オリビエは結社の人間と接触したことある?」
「・・端的に言って2人かな」
「その中に既視感覚えた奴居ない?」
「既視感・・・どういった風に?」

「容姿、とか」
「ないね」
「そっか」
「うん」

「既視感で悩んだわりには随分と返答ハッキリだったね」
「いやぁはっはっは。 性格的な意味でなら
 既視感覚えたんだけどねぇ。 傾向は違ったけれど」


その言葉に思わず硬直。
数秒悩んでゆっくりとため息を吐く。

最中にオリビエが注文していた物が彼の前に並ぶ。
・・・・コイツ結構食うな。


「・・・オリビエみたいな奴があっちに居たのか・・・」
「酷い言われようだ。 ところでエル君、それで?」
「?」
「その質問にはどんな意図があるんだい?
 何の意味も無い、なんてことはないだろう」

「・・・オリビエって『キレる』タイプよね、案外」
「案外」
「じきに分かるよ」



(そう言った彼女は)

(紫色の目を細めて微笑んだ)





 
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