小説

SC L
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城下町で彼女との再会



乗船記録をさらっと確認したのも束の間、
真っ先に視界に映った、達筆なElfriedeという文字の羅列。

ルーアンで会った後は、グランセルに向かったらしい。

思えばもうすぐ三国の不戦条約が結ばれる頃、
警備の手伝いといったところか。

グランセル城下町は数ヶ月前の武道大会や、
クーデター事件の時より賑わっているように見える。

・・女王聖誕祭の方が賑わっていたのだろうか。
今はもう確認できぬ過ぎたことだが。

1つ息を吐き、城下町を歩き出す。
ふと百貨店の裏にある休憩所に目が留まった。

気まぐれに様子を見に行けば、ベンチに人影。
左手で頬杖をつき、瞼を閉じている目的の人物。

・・・当てなどなかったが、意外と会えるもんだな。


「エルフィ」
「ん。 ・・・や」


名を呼ぶ声に反応したのと同時に開かれた深い紫の瞳と、
見慣れたはずのアッシュブロンドの髪に妙に違和感を覚える。

俺となんら遜色ない色の髪は、肩に付くか付かないかの位置で、
横髪後ろ髪、共に平均的に伸びているように見えた。

斜め向かいに立つ俺を見て、エルフィはふっと口元を緩める。


「思ったより早かったのね。 妹との再会はそんなに驚いてくれた?」
「今更何を・・・」


挑発にも似た笑みは何の悪意も感じさせない。
ただその笑みは、彼女からは見たことがない表情だ。

溜め息を吐き、エルフィの右隣に腰を下ろす。

同じアッシュブロンドの髪、同じ紫色の瞳、年の近い男女。
第三者は一目で分かるだろう、「この2人は兄妹なんだ」と。

確かに実際血の繋がった妹、ではあるが。
・・・何年会っていなかったと、


「フン、お前は休憩する暇などあるのか?」
「警備って言っても護衛じゃないしね。
 楽っちゃ楽よ、軍からも兵士が出てるしさ」


口元に手を当てて、眠そうに欠伸を1つしたエルフィを見た。
瞼を伏せて思いに耽る瞳は、10年前よりかは変わったように見える。


「・・それにしても不思議なもんね」
「・・・?」
「本来生き別れてた兄妹って話すこと沢山あるはずだけど、
 いざこうやって隣に居られると、何話していいか分かんないわ」


息を吐き出したのを見、向かいの空のベンチに目をやる。


「それは・・・『ありすぎて』か?」
「・・んんー、あるっちゃあるけど、
 別に報告するほどでもないかなぁ。 因みに兄貴は?」


10年ぶりの呼ばれ方に、思わず小さく目を見開く。

「私何か変なこと言った?」とでも言いたげに
ん? と首を傾げたエルフィに、 いや、と短く一言返した。


「何から聞きたい」
「あんたね、そーやって言わせんのやめない?」


眉を寄せてしかめた顔と目が合う。

ハーメルの生き残りで、唯一の家族は、
既にこの世には存在しないと思っていた。

妹は結社の勧誘を一刀両断で断った後、どこかへと姿を消した。
村育ちで、狭い世界で過ごしていた彼女に当てがあるわけがない、

そんなあの日も、もう10年も前になる。
あの小さかった妹も成長するはずだ。


「・・・まずは、 お前が生きてて良かった」
「うん。 兄貴もくたばってなくて安心した」
「そう簡単にくたばらん」
「でもしぶといイメージはないんだもの」

「しぶといのはお前だけで充分だろう」
「解せない」


そんな軽口叩く会話に、エルフィが顔を綻ばせる。
うん、 と小さく頷いたエルフィはどことなく嬉しげで。


「10年会ってなくても家族だなって、実感しちゃうな」
「・・・・」
「腐っても兄妹なんだねぇ」
「その言い方はやめろ」


眉を寄せて溜め息混じりで否定をした俺に、
ケラケラと屈託のない笑いを見せるエルフィ。

・・・面影は残っている、

エルフィはふと思い出したように頬杖をやめて、
顔色を伺うように上半身を、前にと傾けた。


「っていうか今更だけどさ。
 今日は兄として会いに来たっていう解釈でいいのよね?」
「・・・お前こそ言わせるのか。 意地の悪い奴だな」
「『兄妹揃って』か『兄に似て』が抜けてる」


ふっ、と笑みを浮かべてから、エルフィは再度背をベンチにと凭れた。

そのまま両手を組み、背伸びをするエルフィの横顔は、
昔よりもずっと大人びている。


「念のため聞いておくが」
「ん」
「・・エルフィは、結社の捜査には関わってるのか?」
「いんや? 今のとこは言うほど関わってないよ」


エルフィ曰く、捜査の件で遊撃士がそちらに固まってるから、
彼らの居ない街で、ある程度の依頼をこなしている、と。

まぁそういう裏方も必要か。

「私が合流する可能性もあるけどね。
 結社の出方次第かなー・・あの人が何やるかねぇ。
 あれ? 今回はあの教授が担当してんだっけ?」

「今あの子達が居る場所くらいは、検討付いてるだろーから言わないけど。
 それ以前に私、ギルドの人間だし」

「っていうか条約妨害の件さ、まーたそっちがやらかしてくれたそーね。
 そりゃぁでまかせでよかったけどさぁ、後処理がさぁ」

「カシウスさんに聞いたけど、ヨシュアも遊撃士なのよね。
 今失踪してるらしいけど。 リベール居る間に会っときたいな」

・・・・

思ったより口が止まらん奴だな・・
話すことがないとか言いつつ、出来事から愚痴から言いたい放題だ。

・・そんな様子さえ懐かしく感じる、
たまにはこういうのも悪くない、かもしれん。


「・・・ところでエルフィ、今いくつだ?」
「はーぁ? あんた妹の年齢まで忘れる? 22ですぅー。
 兄貴の知らんとこで勝手に成人してから4年経ちましたー」
「・・いちいち言葉に棘を感じるが気のせいか?」
「気のせいだったらいいね、とだけ言っとこっかな」

「あの生意気で口の減らん妹が今や22か・・時が経つのは早いな。
 相変わらず口は減っていないようだが」
「そーいうあんたも大台もう数年じゃない。 結構いい年よね」
「お前の口は余計なことばかり語るな」
「お互い様じゃない?」



(なんか他に良い人居ないの?)
(・・・・)

((・・無言か。 これはまだカリンが引っ掛かっているか、
 カリンとは別に、誰か思い当たる人が居るかの二択だな))





 
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