小説

SC L
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願いを目前にした彼女



”あたしも剣やる!”
”お前な・・・遊びじゃないぞ?”
”分かってるよ! やるの!”


互いに幼さの残るそんな声に、目を覚まして瞼を開く。

真っ先に視界に映った綺麗な天井に、
ホテルに泊まってたことを思い出す。

寝転がったまま、枕の上で窓へと顔を向けた。

陽はすっかり落ちていて人気もない。
街中の明かりが点いている箇所も少ないように見える。

脳に残る微かな声はそれはそれは明るくて、何も知らなくて。
酷く懐かしいものだった、

胸の奥が締め付けるような感覚に襲われる。
・・・嗚呼、そんなこともあったな。

それにしても過去が突然夢に出てくるなんてどうしたのだろう。
・・いや、原因は、なんとなく分かっているんだ。

もう届かない、もう戻れない。
・・もう会えないかもしれない。

そう思っていたのに、きっかけなんてものは、
本人の意思とは関係なく、前触れなくしれっと来るのだ。


『俺には子供がいてな。 お前さんよりかは小さいが』

『やあ、久しぶりだね♪ 丸10年ぶりかな?』


乗せられてる自覚はある。

前者は本当に偶然だったようだが、
後者は確実に狙って言われたものだ。

相手が相手だ、この地に来た時点で半分命を賭けたようなもの。
それでも構わない、こんなチャンスを逃してなるものか。

初めて降り立ったこの地は、話通り影が見え隠れしていた。
その影に居るだろう誰かを引っ掴みに来た。

天井へと顔を向け、開いた左手を天井に向ける。

普段着けている腕当ては、寝る前だからと外しており、
暗がりながらも、少し陽に焼けた肌が見えた。

今、顔を合わせて 貴方は私を誰か理解するだろうか。
・・・・しないはずがないか。


「・・・・」


ベッドに手を付き、上半身を起き上がらせる。
サイドテーブルに置いてた時計は0時過ぎを差していた。


「・・・そろそろか」


ベッドから下りて、脇に置いていた腕当てを手慣れたように装着する。
続いて立てかけていた剣を2本、ベルトの間に通した。

テーブルの上に置いていた、ネックレスを手に取る。
ネックレスを握った左手を額に当てて、祈るように目を瞑る。


「・・行ってきます」


ネックレスをテーブルの上に置き、踵を返して
部屋の窓を開いて身を乗り出した。

目標目前、来たる時まで後少し。





 
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