小説
□SC L
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願いを目前にした彼女
”あたしも剣やる!”
”お前な・・・遊びじゃないぞ?”
”分かってるよ! やるの!”
互いに幼さの残るそんな声に、目を覚まして瞼を開く。
真っ先に視界に映った綺麗な天井に、
ホテルに泊まってたことを思い出す。
寝転がったまま、枕の上で窓へと顔を向けた。
陽はすっかり落ちていて人気もない。
街中の明かりが点いている箇所も少ないように見える。
脳に残る微かな声はそれはそれは明るくて、何も知らなくて。
酷く懐かしいものだった、
胸の奥が締め付けるような感覚に襲われる。
・・・嗚呼、そんなこともあったな。
それにしても過去が突然夢に出てくるなんてどうしたのだろう。
・・いや、原因は、なんとなく分かっているんだ。
もう届かない、もう戻れない。
・・もう会えないかもしれない。
そう思っていたのに、きっかけなんてものは、
本人の意思とは関係なく、前触れなくしれっと来るのだ。
『俺には子供がいてな。 お前さんよりかは小さいが』
『やあ、久しぶりだね♪ 丸10年ぶりかな?』
乗せられてる自覚はある。
前者は本当に偶然だったようだが、
後者は確実に狙って言われたものだ。
相手が相手だ、この地に来た時点で半分命を賭けたようなもの。
それでも構わない、こんなチャンスを逃してなるものか。
初めて降り立ったこの地は、話通り影が見え隠れしていた。
その影に居るだろう誰かを引っ掴みに来た。
天井へと顔を向け、開いた左手を天井に向ける。
普段着けている腕当ては、寝る前だからと外しており、
暗がりながらも、少し陽に焼けた肌が見えた。
今、顔を合わせて 貴方は私を誰か理解するだろうか。
・・・・しないはずがないか。
「・・・・」
ベッドに手を付き、上半身を起き上がらせる。
サイドテーブルに置いてた時計は0時過ぎを差していた。
「・・・そろそろか」
ベッドから下りて、脇に置いていた腕当てを手慣れたように装着する。
続いて立てかけていた剣を2本、ベルトの間に通した。
テーブルの上に置いていた、ネックレスを手に取る。
ネックレスを握った左手を額に当てて、祈るように目を瞑る。
「・・行ってきます」
ネックレスをテーブルの上に置き、踵を返して
部屋の窓を開いて身を乗り出した。
目標目前、来たる時まで後少し。