小説

SC L
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異変の雷鳴と上がる橋



歳でもなければ記憶障害でもない私の記憶では快晴だったように思う。

滞在していたルーアン支部から引き上げて、
取ってもらったホテル・ブランシュの一室で休んでいた最中だった。

突然、遠くから聞こえたような雷鳴に、ベッドの上に寝転がっていた私は、
その瞬間目を見開き、慌ててベッドから起き上がった。

雷が鳴るような天候じゃない。
異変だと勘付くのに時間は要らなかった。

部屋に立てかけていた剣を2本引っ掴み、
ホテルの一室を鍵も閉めずに飛び出した。

廊下を駆けホテル受付の呼び止める声も聞こえなかった振りをして、
ホテルから飛び出してルーアン市に跨ぐ川から音がした方向へと見上げれば。

神々しいまでの光を放って、空に浮かび上がる巨大な謎の物体。

声が、出なかった。
結社という組織はここまでするのか。

っち、と舌打ちした瞬間、謎の空気が私を襲った。

それが合図だったと言わんばかりに、
湖に近い場所から街の明かりが次々と消えていくのを目にした。

まずいんじゃ、これ。

上がったままの橋を横目にギルドへと迎えば、
ちょうど受付のジャンが支部から出てきた。

駆け寄りながら名前を呼んで声を掛けると、すぐ私に気付いて振り返る。

あの物体が放つ光のおかげで、街灯が無くても
ある程度の視界認識ができるのはありがたいな、と思ってしまった。


「エル! 何が起こってるんだ!?」
「分かんない、分かんない!
 雷が聞こえたと思ったら、湖上空にあれが浮いてて・・!
 それを境に明かりやら何やら、オーブメントが全部切れたみたい」

「・・! 導力停止現象・・!?」
「何それ!?」
「あっ、そこまで知らないのか・・!」


思い当たりがあるらしいジャンに食いつく。

オーブメントが切れた異変に驚いて外へ出る人が増えてきたのか、
若干の喧騒が街の端々から聞こえた。

ジャンは少し唸ったような表情をしては、街全体を見渡した。


「細かい話は後にする! エル、夜目は利く?」
「利く!」

「街の混乱収束は他の遊撃士達に頼むから、
 君は導力停止がどの範囲までか調べられるかい?」
「オッケー、任せて」
「街道のオーブメントも切れてるだろうから、魔獣には気をつけて」
「ふ、余裕」


ホテルから出てくる際取ってきた剣を、
ショートパンツのベルトに左右それぞれ挿す。

そしてふと、右手前に存在する高く吊り上がった橋に目を向けた。


「あっ、橋上がって・・るね。 あ〜タイミング悪いなぁ、もう」


頭をがしがしと掻くジャンを視界に納めながら橋を見上げる。

ギルドのあるルーアン市北側となるともう海沿いだ。
範囲を調べると言ってもルーアン地方の話で収まってしまう。

ルーアン近くに四輪の塔があった気がするな・・
塔の屋上からだと国内大体見渡せるだろうか。

まぁその四輪の塔とやらは橋超えた先のアイナ街道から、だが。

吊り上がった橋をちらりと見やって、
少し歩いて角度を変え、橋と橋の距離を確認する。


「エル?」
「・・・まぁこの距離なら行けるっしょ」
「えっ、ま、まさか、橋渡る気かい!?」
「こっち側は見渡し悪いもの」


小さく肩を上げて笑い、橋の前へと移動した。
・・・角度はそこそこあるな・・・駆け上がれるだけマシか。

橋を正面にして、後ろへと足を伸ばして距離を伸ばす。
助走が付けられそうな距離を稼ぐと、その場で数度ジャンプを繰り返した。


「(レーヴェ。 貴方ならこの程度造作もないでしょう?)」


それなら妹である私にもできるはずよね?

ふ、と軽く息を吸い込んでは、力を込めて足を一歩力強く踏み出す。
駆けるように走り出し、坂にしては急過ぎる橋を駆け上がった。

吊り上がった橋のてっぺんに手を掛けて、ブーツの裏を橋に引っ掛ける。

そのままブーツの裏で橋のてっぺんを蹴っては、
向かいの吊り上がった橋のてっぺんに手を伸ばした。

滞空する空中。 真下は川。

視界の端で神々しい光を放つ、
あの物体をなんの障害も無しに見ることができた。

ガッ!

橋に引っかかる左手と腕一本でぶら下がる身体。
自分の身体を支えた際、意外と腕に負荷が掛かってちょっと顔を顰めた。

橋にぶら下がる自分の腕を見上げて。
ふとつい最近こんなことあったな、と思い出した。


「・・ふ、予行演習だったのかな」


右手も橋に掛け、腕の力で身体を起こし橋に足を掛ける。
両足掛けた後は簡単で、靴の裏で急な坂を下っていった。

あまりにも急だったものだから、着地の際少しよたついてしまい、
微かな喧騒の中、「わ、ったった」と自分の声が響く。

異変を感じ取った人達が街へと出てくる。

・・混乱の収束は他に任せて、私は塔へ急ごう。
なんて塔だったかな・・青・・・紺だったかな。

慣れてきたルーアンの街。
アイナ街道の方向へと足を向け、その場から駆け出した。



(・・にしてもあの物体、人工物のように見えるな。 街なのかしら?)





 
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