小説

SC F
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温和に命令を包んだお話



古代竜の後、グロリアスに合流されたレオンハルト様が兵に告げたことは、
フィアナという女性の存在と、彼女に何を訊かれても答える義務はないこと。

そして彼女に何かが起きた場合、報告を行う先は、
自分を優先するように、とだけ仰っしゃられた。

結社に突如として現れたフィアナ様は、あらゆる噂が流れていた。

『蛇』とは似ても似つかぬ可憐な女性である、とか、
ああ見えて執行者候補の凄腕であられる、とか、
レオンハルト様の愛人ではないか、とか。

真偽の定かでない噂がいくつも泳ぐ中、1つ確かなことは、
彼女は『結社』ではなく『レオンハルト様』の管轄らしいことか。

剣帝の管轄である人間を無下にはできず、
彼女を呼び捨てにする者など誰も居ない。


とある夜、甲板に1人で佇んでいた彼女に、
1人で居るのは危ないですよと初めて声を掛けた。

フィアナ様は幾度か瞬きを繰り返した後に目を細め、
「レオンさんにも同じことを言われました」と柔らかく微笑んだ。

実際に話してみた感想を言えば、
結社に縁の無さそうな至って普通の女性であった。

温和な笑みを浮かべながら、どこか凛とした雰囲気もあって。

兵士に様付けで呼ばれる現状に、笑いながら困惑を見せるような。

穏やかで、優しげで、話しているとどこか落ち着いて。
彼女を手元に置く気持ちは少し分かる気がする。







福音計画が次の段階へと入り、教授や執行者が一通り艇から出払った。

グロスアス艇内にはレーヴェとフィアナ、捕らえた遊撃士が1人、
そして兵が数班残っているだけである。

今後の準備のため、兵士達は艇内を急ぎ足で移動している。
不意に頭上から「3班、止まれ!」との声が響いた。

吹き抜けの2階から見えたレーヴェの姿に、兵士一同は敬礼をする。

レーヴェは柵を乗り越え、その高さから軽々と着地し、
仮面を被った兵士達を見渡した。


「この中でフィアナと最も親しい者は」


脈絡のない問いに疑問符を浮かべつつも、数人が揃って1人の兵士を指す。

指された兵士は1歩前に出てから改めて敬礼をし、
「はっ! アルマと申します!」と名乗り出た。

レーヴェは兵士を一瞥し、普段と変わりない様子で口を開けた。


「急ぎフィアナと合流しろ。 招集や異常の際もフィアナの傍を離れるな」
「承知いたしました」
「今は捕らえた遊撃士と面会中だろう、追ってくれ。 以上」


簡潔に命令を下したレーヴェは、踵を翻しその場を去って行った。

兵士アルマは班に向けて敬礼し、1人外れてグロリアス艇内を駆けていく。

彼が遊撃士が捕らえられた部屋に向かうと、
部屋の前には見張りの兵士が立っていた。

命令でフィアナと合流したい旨を伝えると、
まだ部屋から出てきてないらしく、通路で待たせてもらうことに。

数分ばかし待機すると部屋の中からノックの音。
兵士による解錠で、オレンジ色の髪をした彼女が部屋から出てきた。


「フィアナ様」
「あら、アルマさん?」


兵の格好はヘルメットから制服まで同じであるのに、
声を掛ければ彼女は兵士の名を当ててみせた。

いつぞやに『名前呼ぶ時はいつも賭けなんですけど』と彼女は笑ってたが、
少なくともアルマは彼女から違った名を挙げられたことは一度もない。

きっと、こういうところに惹かれるのだと思う。


「こんにちは。 レオンハルト様より、フィアナ様と合流せよとのお達しが」
「そうですか、よろしくお願いします」





(私には何か指示がありましたか?)
(いえ、何も。 フィアナ様の好きにしてよろしいかと)
(そうですね・・・実はまだ船内のマップを覚えていないんです。
 付き合っていただいてもいいですか?)
(なんなりと)





 
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