小説

SC F
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崩れる浮遊都市を眺めて



アルセイユの甲板縁に手を掛け、その様子をじっと見つめていた。
浮遊都市全体にヒビが入り、たちまち崩れていく様子はあまりにも呆気ない。

浮遊都市の中は機械の魔物は居たけれど水は綺麗だったし、
通路も何年も前も物とは想像ができないほどに美しかった。

あのような流れで出現したものでなけれはきっと文化財にでもなっただろう。

少しばかり的外れなことをぼんやりと考えるのは疲れのせいだろうか。

執行者や機械との連戦に加え脱出に浮遊都市走り回り、
遊撃士でもなんでもない一般人のフィアナは歩くのもやっとだった。

足の裏はずっと痛みを訴えているし、少し気を抜けば膝も笑いそう。

それでも、ただ気楽に休めるような心情でもない。
冷たい風を受けながら、フィアナはただ見上げていた。

あれほど仰々しく圧倒的存在感を放っていたものが崩れていく。

元々存在しないのが当然で私達の当然であるけれど、
一大事件が何事もなかったかのように姿を失くすのも、これまた違和感。

ずっと甲板に居る私へ休んだ方がいいとの心配の声もいくつか掛かったけど、
もう少しだけ風に当たりたくて、と答えれば食い下がられることはなかった。

隠していなかっただけに誰もが周知だった。
・・・好きな人が亡くなったばかりだ。


「・・・あーあ、」


口を付いて出たのは力無い諦めのため息。

浮遊都市と共に失くした人生初の想い人。
あの都市と共に楽しんだ初恋も崩れてく。

その様がまるで視覚化されているようで、
どこかやるせない気持ちになってしまうのはきっと私だけなのだろう。

きっかけが半分一目惚れではあったものの、
最終的にはなんだかんだ、行動1つ1つに焦がれていた。

だってあの人、ずるいんだ。
私に恋愛感情なんて抱いてないくせにやたら優しいの。

約束は果たせそうにないと、最期なのに謝られた。

なんでもない半分押し付けのような約束を覚えていてくれて、
成り行きで拾ってしまったような私を気にも掛けてくれたけど、
私は貴方をこの世に繋ぎ止める枷にはならなかった、なれなかった。

でも、彼は知ってしまった。

身を挺してでも守ろうとする感情を。
身を挺してでも守りたかったものを。

私が抱えていた根底を、全て。

憎むような黒い感情は元々あまり持ち合わせていないけれど、
あんな表情をされてしまっては、何も言えなかったのだ。

初恋が成就しなかったなんて我儘を言うつもりはない。
寧ろ叶わないつもりで居たから、恋愛感情での被害は然程無い。

ただ、 ただ。
欲を言えば、もう少しだけ別の終わり方が良かったと。

・・・自分が弱かったのかな。
さよならも告げることができなかった。


「本当に、好きだったのになぁ」


彼女の独り言は風に掻き消えていく。
明るいオレンジ色の長い髪が揺れている。

崩れていく浮遊都市を映し出す翡翠色に、瞼が伏せられた。


もう、会えない。





(生きて、ほしかったなぁ)

(言葉にできなかった願いは胸に秘めて)
(初恋と共に、旅の終わりを感じていた)

(不思議と涙は出てこなかった)





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