小説

SC F
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休暇の午後は桟橋で釣り



「はー、動いた動いた」
「お疲れ様!」
「お疲れ様です」


昼ご飯を終えた後、腹ごなしだと手合わせを始めたジンとアガット。

10数分に渡る戦闘の後に一区切り付いたようで、
背伸びするアガットと水分補給をするジンにそれぞれ労いの言葉を掛ける。

周りの様子を見、一息付いたジンが全体に届くように声を掛ける。


「この後はどうする?」
「うーん、午前だけで結構はしゃいだわよねぇ。 私は休もうかしら?」


頬に手を当てて笑い混じりに告げたシェラザードに、
エステルがぴくりと反応を見せた。

ここぞとばかりに素早く挙げられる手。


「あっ、それじゃ私釣りやりたいんだよねー!」
「エステルちゃん釣り好きなんですか?」
「えへへ、自慢じゃないけど得意! フィアナさんは?」
「私は釣り経験ないんです」

「あのあの、ツァイスってそんなに釣り場ないから・・」
「そっか。 フィアナさんもツァイス出身だもんね」


フォローの言葉を入れたティータに納得の表情を見せるエステル。
ツァイスはリベール国内では内陸のため水場が少ない。

トラット平原に池があるが魔物が出るため、
釣りのためだけに平原に向かうような民間人はまず居ないだろう。


「フィアナさんもやる?」
「・・・せっかくの機会ですし少しお邪魔しようかな?」
「おぉ」
「おっ、フィアナちゃん釣りデビューかぁ」







宿の中で竿の種類や餌の準備をしながら桟橋まで移動した釣り勢。

オリビエ、シェラザード、クローゼ、ティータは釣りには参加せず、
デッキのパラソルの下で釣り勢の様子を眺めようと席に座った。

意気揚々とミミズやコエビを釣り糸先端の針金に取り付ける経験者を見ていた
フィアナはと言うと、少し驚いたように口元を覆ってじっと見ていた。

「わぁ・・想像はしていたけれどこれはなかなか・・・」

・・・ツァイス出身の彼女は王都ほどではなくとも都会育ちである。


エステルからあれこれとレクチャーを受けながら彼女の隣に腰を下ろす。

周りを真似るようにルアーを湖に投げ入れ、
フィアナは興味津々でルアーの様子を見つめていた。


「魚が掛かったらすぐ分かるんですか?」
「すぐ分かるよ! 竿がね、ぐぐーって巻く!」
「手元にもぐっと重みが来るぞ」
「ほう・・・」


近くに座っていたジンからも感想を貰い、未だ知らぬ感覚に想像を馳せる。
その矢先だった。 隣に座っていたエステルの竿がぐっと曲がった。


「ん! 来た!」
「あっ、お早い・・!」
「最初はエステルか」


エステルは慣れた手付きで落ち着いて釣り糸を巻く。
水面から姿を見せたのは大きそうな魚だった。

振り返ってエステルの引きを確認したジンが「おぉ」と声を上げる。


「トラードじゃないか?」
「幸先良いね!」
「わ、生きてるトラード見たの初めてかもしれない・・」
「流石都会育ち」


エステルは喋りながらトラードの口から針を外しバケツの中に1匹投入。
流れるように次の餌を取り付けて湖に投げ入れた。

エステルちゃんは昔から?
そうそう、家の近くに川あったのよね。

各位の釣り事情をあれこれ聞いているうちにエステルが2匹目が掛かる。
他の面々も釣れ始めたところで更にエステルが3匹目を釣った。


「うわ、凄いエステルちゃんまた釣ってる」
「ふふーん♪ どうよ、この釣りさばき!」
「エステルちゃんには敵わんなぁ」


反対側の桟橋に居たケビンが笑っていると、
フィアナが少し驚いたようにぴくりと肩を震わせた。

思わず竿を握り直すと竿の先端が曲がる。


「あ、っわ、 わ えっ、引っ張られてる!?」
「あ、それ食いついてる! 引いて引いて!」
「あわわわ」
「落ち着いて落ち着いて」

「お、思ったより重い・・・! 魚って意外とパワフルですね・・!?」
「魚とて人間には敵わんでフィアナちゃん!!」
「確かに・・・!」
「どんな会話してんだ・・」





(・・・は、針が取れない・・・・?)
(これね、こー・・・やってすると取れやすいよ)
(こ、こう・・・ ここまで不慣れだと魚に申し訳なくなってくる・・)
(あはは、慣れる慣れる!)





 
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