小説

SC F
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君が居てくれたらきっと



「そういえばここしばらく多忙だったから休暇にしようって話が出ていて」
「あら、そうなんですか?」


ギルドの手伝いで来たつもりが休暇との話になりフィアナは頭を傾けた。

思い返してみればここしばらくは執行者の実験が次々と起こり、
対応は全て彼女達だったはずだ。 疲労も相当だろう。


「どこでお休みになられるんです?」
「川蝉亭ってとこ。 知ってる?」
「・・・湖近くの宿ですか?」
「そうそう!」

「『なられる』なんて随分他人行儀な聞き方するんだねぇ」
「あら?」


エステルの宿の場所で会話していた矢先、不意にオリビエが割って入った。
言葉の意味を理解しきれなかったようにフィアナは彼へ視線を向けた。

腕を組んでどこか呆れたように笑みを浮かべている、
オリビエの意図が読めぬままフィアナは見つめ返す。


「君は来ないのかい?」
「え」
「えっ、来ないつもりだったの!?」
「えっ」


彼の問いから予想外だったと言わんばかりの表情。
そしてエステルが驚いた表情でフィアナに一歩詰め寄った。

オリビエの指摘通り、確かに先程までの彼女は自分を勘定に入れておらず、
「楽しんでこられたらいい」「私はその間どうしようかな」ではあった。

少しだけ表情に困惑の色を見せるフィアナに全員の視線が集まる。


「えっ、でも、私はそんな・・・
 せっかくの休暇にお呼ばれされるほどのことは、」
「どう言ったら来てくれる?」
「え、えぇ?」


くいっと左腕を引っ張られて視線を向けると、
ツァイスに居た頃からよく知るティータがじっとこちらを見上げている。


「私も、フィアナお姉ちゃんと一緒がいいなって・・・だめですか?」
「う、 ティータちゃんにそう言われると弱い・・」
「私からもお願いします。 フィアナさんとお出かけしてみたいです」
「クローディア殿下まで・・・参ったな、」


眉を寄せて困ったように笑みを見せるフィアナに、
クローゼもティータも笑いながら彼女を見つめていた。

・・・フィアナはクローゼにも弱かった。

その様子を見守るように見ていたシェラザードが肩を上げて小さく笑った。


「いいじゃない、大人しく誘われておきなさいよ。 ねぇ、アガット?」
「あー、まぁ、いいんじゃねぇの」
「何? まーだブツクサ言ってるの?」
「お前らが受け入れるの早すぎんだよ! 反対はしてねぇ!!」

「おや? おやおや? これはアガット君珍しくデレたんじゃない?」
「オリビエてめぇ!!」
「あー、はいはいそこ喧嘩しなーい」
「はっはっは。 フィアナなら押し掛けたとて歓迎だろう。
 せっかく合流したんだ、ゆっくりしようぜ」


年長組のやり取りに据わった目で仲裁を入れるエスセル。
ジンも明るく笑いながらフィアナの参加を歓迎する姿勢を見せた。


「因みに僕は美女歓迎なのでフィアナ君も歓迎です」
「オリビエあんた台無し」
「ふふ、美女ってほどの美貌は持ち合わせてない気がするんですけど・・
 オリビエさんも一応ありがとうございます」
「一応って意外と酷いなフィアナ君」


室内から湧き出てくる笑いにフィアナもつられるように笑みを見せる。
やがて翡翠の瞳を少し伏せ、柔い笑みを見せた。


「そうですね・・ここまで誘っていただいたら断る方が失礼ですね。
 私も是非、休暇にご一緒させてください」


明るい声が遊撃士協会から零れ出た。


君が居てくれたらきっと、素敵な休暇になるよ。



(ふふ、フィアナさんとお出かけ)
(クローゼってばご機嫌ね)
(あはは、はしゃいじゃってごめんなさい。
 フィアナさんとゆっくりできる時間って今までなかったから、)
(うーん、元々呼ぶつもりだったけど、
 クローゼがここまで喜んでくれるなら大正解だったわね)

(私ツァイスからあまり出たことがないんですけど・・
 川蝉亭ってただの宿屋、では・・・)
(ないわよね。 釣りとかボートとかの貸し出しがあるのよ)
(街から離れてるなら星とかよく見えそうじゃないか?)
(わ、素敵ですね。 ふふ)





 
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