小説
□SC F
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保護者にしては威圧ある
・・・今日は妙にフィアナの姿を見かけない気がした。
陽が落ちたから甲板かと思ったが姿はない。
読書中かと思い彼女が借りている一室を訪れたが留守だった。
探すうちに廊下でレンとすれ違い彼女の所在を訊いたが。
「フィアナ? 晩ご飯の後ヴァルターが連れて行ったわよ」
「・・ヴァルターが?」
「そういえばヴァルターやけに大荷物だったわね。 あれはお酒?」
・・奴の酒癖を知っているだけに、少々嫌な予感がした。
*
ヴァルターがグロリアスでサシ飲みするならばこの部屋か。
訪れたある一角の部屋は予想通り部屋の主が居た。
扉を開ければ平然と酒を飲み続けるヴァルターと、
その向かいのテーブルで組んだ腕を枕のようにして、
うつ伏せになり眠っているらしいフィアナの姿。
テーブルの上には酒と思しき缶がそこそこな数が積んであり、
フィアナの傍にも小さめのグラスが1つ置かれていた。
「わりぃ、潰しちまった」
「『潰した』じゃないだろう・・」
けろっとした表情での発言は概ね嫌な予感通りの回答だった。
会話で目が覚めたのか、元々眠ってはいなかったのか、
うつ伏せだった彼女の瞼がゆっくりと開き隣に立つレーヴェの姿が視界に。
「・・・ん、 レオンさん・・?」
「何しているんだお前は・・・」
呆れたように声を掛けるレーヴェに、
フィアナはゆっくりと身体を起こして緩く笑みを見せた。
ヴァルターが潰したと言っていただけに、
彼女は相応に酔ってるようで顔が妙に赤い。
「あはは、妙に飲みやすくて美味しかったものだからつい、
ちょっと楽しくて飲みすぎちゃった・・・」
そこそこ酔ってるようだがある程度意識ははっきりしている、のだろうか。
普段より力ない声だが会話に不自然さは伺えない。
「残りは後日にしてやるよ、悪酔いすんなよ」
「まだあるんですか・・?」
苦笑いを浮かべるフィアナに向けて、
しっしっと手を振り追い出すような仕草をするヴァルター。
彼女は笑いながら「ではお先に、」と席を立った。
椅子から一歩離れた瞬間フィアナが崩れ落ち、片手をテーブルに引っ掛けた。
何が起こったか分からなかったかのように、
彼女の表情は疑問符で埋め尽くされている。
「・・・? ・・?」
「あ、コイツ思ったより酔ってたんだな」
「世話の焼ける・・・」
崩れ落ちて座り込んだまま疑問符を浮かべるフィアナの傍に膝を落とし、
「動かすぞ」と告げると彼女は動揺したようにレーヴェを見上げた。
「うえ、えっ、あの、大丈夫です・・っ!?」
「大丈夫ならば崩れ落ちんだろう」
「ま、ま、待ってくださ、」
「大人しくしてろ」
レーヴェが溜息混じりで咎めるように告げると、
彼女は口を噤み申し訳なさそうに「すみません、」と呟いて目を伏せた。
フィアナの背中と膝裏に腕を回し、彼女の身体を持ち上げる。
部屋を出る直前、まだ飲み続けるヴァルターに視線をやると
向こうも気付いたようで顔が上げられた。
「・・酒の誘いは止めはせんが量は抑えてやれ。 毎度潰れられたら敵わん」
「わりとすまん」
(だから酒絡みのヴァルターはやめておけと言っただろう)
(め、面目ないです・・・ 飲みやすいお酒珍しくて・・)
(・・・具合は大丈夫なのか?)
(大丈夫・・と、思って、たんですけど ちょっと、ぐらぐらするかも・・)