小説

SC F
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相対して募る秘密抱えて



その瞬間はすぐ手放すつもりでいた。
あくまで介抱、自分のことも結社のことも一切話さないつもりで。

想定外が起きたと言えば、その女の予想外の感情以外にあるまい。

それからは、ゆっくりと潜るように沈んでいった。
幾多もの限られた時間と限られた発言、限られた行動。

ずっと笑っていたのが不思議なほど、窮屈な生活だったろうと思う。

自身が執行者ゆえに「一切の制限を課さず」は当然の如く不可能だが、
自身が執行者であっても、彼女は望むように動けばいいと思っていた。

自分にとって彼女との出会いは、ある程度良いものだったと言える。
実際彼女が居た時間は1人で居る時よりずっと楽しかった。

同時に後悔していた。

本人が望んで居た場所だった。
とは言っても、自覚もあった。

彼女を歪ませたとまでは言わずとも、違う道に引き込んだことを。

自分と出会わずとも強く生きていける人間であると知っている。
俺が関与しなくてもいずれは、きっと自分の意志で戦うようになったさ。

・・・本人が聞いたらなんと答えるだろうか。
・・・想像が付かない。 この案件でアイツは読めないな。


先程の戦闘時、ヨシュアに弾き飛ばされた黄金の剣ケルンバイターを、
ダメージを受けた身体を支えながらゆっくりと屈んで拾う。

機械人形の群れと戦う遊撃士関係者の姿を視界に映す。

腕の立つ者が揃っているはずだが、人形の数に押され劣勢だった。
維持ではいけない、打破する手段がなくては間に合わない。

教授から受けた傷は決して軽いものではない、が。
修羅を歩んだ身体、まだ動けるだろう。

・・・1つ、深く呼吸をする。

ずきずきと痛みを訴える肉体は、随分久しぶりのように感じる。
こんな傷を負ったのはいつ以来やら。


「・・・フィアナ、」


誰にも聞き取られなかった、自分を好いていると言う女の名を紡ぐ。

一切の絶望を知らないような笑みを見せ彼女は凛と走って行った。
それが比喩であることも知っている。 ・・・だから参るんだ。

ふとした時に、彼女の髪色とエメラルドを思い出す。
時間が経つにつれその頻度が増えた自覚もあった。


「(お前を羨ましいと思ったことがある)」


呆れたように浮かべた口元の笑みは誰にも知られずに、
状況打破のために呼び出されたドラギオンを呼ぶ声と化す。


彼女は枷を解いていく、氷を溶かしてく。
『陽』でなくては成せないことだ。

それなのに。

自分は誰にも言えぬ秘密ばかりが募っていく。



(あの弓は彼女の翼。 片方だけの翼)
(もう片方は、きっと、自分が潰した)

(片方を与えたのは自分、片方を潰したのも自分)
(せっかく手にした翼を自由に使わせたいと思う)

(対に惹かれるのは、それらが自分にないからだろうか)





 
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