小説

SC F
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違和感は一瞬、君は潜る



仮にも居候の身ではあったけれど、
居候であるからこそ兵士さんから存在認知はされていた。

方舟に乗り始めた当初に一度、連絡が行き渡っていなかった兵士さんに
侵入者かと勘違いされてちょっと危ない目に遭ったから。

そういった勘違いが完全に無くなり、
私の存在を『そういうもの』だと受け止められる頃には、
兵士さんとの会話も普通に行われていた。

時には兵士さんの傷の手当てに回ったこともあった。
時には兵士さんの身の上話を聞くこともあった。

逆も然りで私が自分のことを話すこともあった。
私がレオンさんのことが好きで結社に居るのも、大方周知というわけだ。


フィアナがふらりと船内を散策することは度々あり、
時間さえ許せば兵士と立ち話をすることも珍しくなかった。

彼女の柔らかい気に当てられたか、立ち話する兵士の半分は嫌々でないが。

その日もフィアナは廊下を1人歩いていた。
向かい側から歩いてくる1人の兵士の姿を確認。

兵士もフィアナに気付いてその場で足を止め、
フィアナに向けビシッと敬礼をした。

仮に居候という立場の部外者であっても、
執行者公認であるがゆえに彼女に無礼を働けはしない。

フィアナは会釈して、声が届くほどの距離まで近付いた。


「お疲れ様です」
「はっ、フィアナさんお疲れ様です」


フィアナはそのまま兵士の横を通り過ぎるかと思いきや、
兵士の前でふと足を止めた。

少し不思議そうに、仮面の奥にあるだろう瞳を探す翡翠色。

通りすがりの挨拶で済ますにはこの足止めは少々異様だろうか。
兵士は疑問そうに小さく首を傾げた。


「? どうか・・されましたか?」
「いえ。 これからお仕事でしょうか? 頑張ってくださいね」
「はっ! ありがとうございます」


歩いて通り過ぎていったフィアナを見届けた兵士は、
仮面の内にあった琥珀色の瞳を彼女の背中へと視線を向けた。

夕陽のようなオレンジ色が揺らめいて彼女の背中に収まった。

真っ直ぐ歩く彼女からは凛とした空気も感じ取れる。


「・・・・」


今の一瞬の躊躇いは、なんだったのだろうか。

初対面の人物にバレるほど甘い変装はしていないつもりだ。
少し肝が冷える。 そして自分は、彼女を見たことがあったからだ。


「(フィアナ・エグリシア・・ツァイスで捜索依頼が出ていた女性だな。
 耳には挟んでいたけれど、道理で国内じゃ見つからないわけだ)」


人当たりの良さそうな、感じの良い女性だった。
結社には不釣り合いなほどの優しい笑みが映える。

一般兵である彼らに、彼女が結社に潜り込んだ経緯なんて知る由もない。
噂では、彼女は『剣帝』が好きでここに居るんだとか。

・・・どこまでが本当なんだか。

ツァイスで捜索依頼が出ていた時、彼女は戦えないとの話だった。

執行者ほどの戦力は持たないだろう、
戦闘に持ち込まれた時の心配をする必要もない。

そして彼女は、良くも悪くも部外者だと言う。


「(・・・噂通りの温和そうな人だな。 邪魔はしないだろう)」


今ここで彼女とすれ違えたのは幸運だった。
フィアナ・エグリシアがどういう人物か、大体分かった気がする。

彼は、フィアナが先程通ってきた道を歩き始めた。





 
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