小説

SC F
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第二次証明終える感想と



その使い方は間違っていると幾度か、幾人かに言われたことがある。

接近に持ち込まれた時は、弓で殴って距離を置くようにしていた。
魔物からの攻撃であった爪は、弓で受け止めて受け流していた。

本来の弓の使い方ではないという自覚は正直ある。

まだ数えるほどしか重ねていない対人戦。

振りかぶられた剣は正直恐怖も少なからずあって、
本能的に手にしていた弓で庇おうとした。

その時に受けた、弓越しでの衝撃。

ずっと手の平に衝撃の余韻が、ビリビリと痺れていた。
今まで受けたどの攻撃よりも重かったのだ。

予想以上の重さに驚いたのと同時に体勢を崩してしまって。

追撃が来なかったのは救いだけど、それは皆の立ち回りのおかげであり、
私への対処優先順位が下がって、
意識が別に向かっただけだから隙は隙だ。 反省。

振り返った戦いではまだまだ未熟だなと思う箇所ばかりだった。

剣のぶつかり合う音を耳に、伏せていた目を開いては、
ハイレベルな執行者同士を戦いを視界に映す。


1秒間に何回かという程の高速連撃の後にレーヴェが手から剣を離した。
宙を舞い、カンカラという音と共に地に落ちる剣。

彼の素直に負けを認める発言に、
観戦していたエステル達が戦っていた2人へと駆け寄った。

いくつかのやり取りの後、抱きしめ合うレーヴェとヨシュアの様子を見守り。

レーヴェはエステルへと感謝・・・らしくはない言葉を述べた後、
会話を区切るようにエステル達の背後へと視線をやった。


「フィアナはいつまでそうしているつもりだ?」


呆れながら紡がれた言葉に、エステル達は
先程まで戦闘を観戦していた場所へと振り返る。

そこには地にへたり込むように座り、レーヴェ達の様子を、
力無く笑いながら見守るフィアナの姿があった。


「えっ、ええええフィアナさんどうしたの!?」
「あは、は、ごめんなさい、少し、疲れてしまって」


眉を下げて笑うものの普段の明るい笑みではなく、
彼女は肩を上げて深く息を繰り返していた。

心配してフィアナに駆け寄るエステルに、後を追うヨシュア。

近づいてみれば少々顔色が悪いか、呼吸も浅く聞こえる。


「顔色悪いよ、大丈夫?」
「酸欠気味、かもしれません・・」
「酸欠!?」

「浮遊都市、それもアクシスピラーの最上階で遥か上空に居るからね。
 更にレーヴェとの戦闘と来て派手に動いたから、」
「そっか・・! しんどいんだね」
「覚悟はしていたんですけど、思ったより堪えたみたいで・・・」
「水飲む?」


エステルは鞄から水の入った水筒を取り出すと手渡した。
彼女は礼を言い、水筒を受け取るとごくりと喉を鳴らして飲む。

ふぅ、と一息付くフィアナは少しばかり呼吸が落ち着いたようだった。
傍に来て目線を合わすようにしゃがんだエステルへと水筒を返す。

遅れて近づいてくる足音に、フィアナは顔を上げた。


「お前も随分無茶をする」
「・・『も』って、」


自身以外に誰を指したのか分からない発言に小さく笑う。

座り込んだままであるフィアナの姿を見つめたまま、
レーヴェはふと思案する表情を浮かべる。


「・・思えばこうして剣を向けたのは初めてだったか」
「そうですね。 レオンさんも律儀なことで」
「その話はもういい」
「失礼しました」


苦笑しながら中断を促す発言に、フィアナはくすくすと笑みを浮かべる。

レーヴェはもう数歩、彼女に近付くと少し屈んでは彼女へと手を伸ばした。
そろそろ落ち着いただろうから立て、とのことだろうか。

差し出された左手に、右手を乗せて半分引っ張り上げるように立たされる。

左腕と胸で抱えられた弓とフィアナを見比べた、
深い紫色の瞳は幾度かの瞬きを繰り返す。


「・・・存在証明、か」
「?」


不思議な物言いにフィアナが不思議そうに瞬きを繰り返す。
透き通らんばかりの翡翠が見つめ返していた。

以前からどことなく彼女の瞳が苦手だった。
色ではなく眼差しが苦手だと感じていて。

数ヶ月かの時を経て少しは耐性付いたかと思った矢先にこれか。

戦闘時、あの翡翠に目を逸らしそうになった瞬間があったことは、
流石にしばらくの期間を設けねば口にはできそうにない。

疑問符を浮かべんばかりの表情である翡翠に、苦手意識は抱かなかった。


「存外フィアナらしいなと」
「私らしい?」
「お前の存在なぞ証明されずとも知っている」
「・・・え、 え? ありがとう、ございます?」


意図が汲めないながらも、礼を述べるフィアナに彼はふと笑みを零した。



(にしてもフィアナさん、大分本気でレーヴェに掛かったよね・・)
(え? だって私は戦うために呼ばれたんですよね?)
(それはそうなんだけど、 好きな人相手に本気で戦えるのは凄いなって)
(相手が相手ですし・・・中途半端な方が失礼だし、
 本気でかかっても掠るかどうかすら怪しい人だから)

(フィアナには苦戦させられたな)
(ふふ、本当かなぁ)
(フ、苦戦したかはさておき厄介だとは感じた)
(あ、やった。 それだけで充分立ち回り上手くできた気がします)





 
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