小説

SC F
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終わる第一次証明と挑戦



剣を手にし戦う俺が、弓を扱う彼女を直接狙う頻度は低いものであった。

後衛であるのをいいことに前衛支援のアーツを惜しみなく使い、
弓を引き、放った矢は俺に直接当てる攻撃でなく、
前衛で戦う彼女達へ補助した、俺の動作制限を目的とした攻撃。

フィアナから直接攻撃の頻度は、俺と同様に低いものであるし、
彼女から受けたダメージは4人掛かりの全体を通しても1割にも満たない。

直接受けたダメージとしては余りにも少ないが、
戦いの場に立つ者としては、一番厄介と感じる存在。

・・・俺が『剣帝』でなければ、の話である。


厄介と呼ぶに値する存在かと問われれば少々悩もう。

動作制限の意図で放たれた矢が、全く効いていないわけではないし、
実際前衛で戦う遊撃士が攻撃しやすい体勢になったのは事実だ。

彼女が発動した支援アーツで、俺が行った攻撃の威力が大幅に軽減され、
意外と手応えを感じなかったのも事実だ。

ただ、俺は彼女がキレる奴であることを知っている。

序盤アーツを放とうとするフィアナの詠唱を2度連続で止めた後、
彼女がアーツを使う頻度が目に見えて減った。

正確にはタイミングを慎重に見計らっていた。

俺と言えども流石に4人を相手に、アーツ全てに対応し防ぐことは難しい。

とは言え「タイミングを見計らわねば高確率で詠唱を防がれる」
その印象を与えただけ、威嚇には充分だったろう。

・・逆に言えば、威嚇の後の詠唱は高確率でアーツ発動が成された。

後衛の人間にも充分に警戒しているし、
何より戦闘の舞台を全て見ている。

それでも発動させてくる。
彼女を厄介と感じるならばこういうところだ。 流石に舌を巻く。


戦闘に区切りが付いたのはフィアナに一撃入れ距離を離し、
それぞれと一定の距離をおいた時だった。

ブーツの裏で滑り留まり、峰打ちを食らった腹部を抑え膝を付く。
フィアナの鈍い声を耳に、視界の端に姿を捉えたまま遊撃士へ顔を向ける。


「フィアナさん! っく、」


エステル・ブライトが1人離されたフィアナの身を案じたが、
武器を構えたまま見据える俺へと再度武器を構える。

それぞれの口から述べられる感想を耳にしながら、
少しだけ息を吐いては目を伏せた。


「・・・なかなかやるが俺の修羅を止めるほどではない。
 その程度では、たとえ俺に勝っても『白面』に嬲り殺されるのが関の山だ」


戦いにおいて問う俺ほど奴は生易しくない。
あの残虐たる『白面』は、戦闘を「戦闘」と受け取りしやしない。

それ以前の問題だ。


「ここで果てるか、尻尾を巻いて逃げるか。 どちらかを選ぶがいい」
「じょ、冗談じゃ・・・!」

「・・だったら、レーヴェ。 ここから先は僕1人で挑ませてもらうよ」


武器を納めたヨシュアの発言に、面々が驚いた表情を浮かべる。

自分の表情にも笑みが浮かんだ。
・・・これは、思わぬ挑戦状だな。

心配そうにヨシュアに声を掛けるエステル・ブライト。

数言やり取りをしたかと思えば、
先程武器を納めたヨシュアを除く面々が武器を納めたのを見た。

・・成程、託すか。

顔の向ける位置を変えず、視界の端に捉えていたフィアナに声を投げる。


「フィアナ、動けるか」
「っつ、はい・・・」
「戻っていろ。 場所を使う」
「・・・承知しました、」


了承の言葉と同時に微かに含んだ笑み。
左手に持っていた弓を胸に抱え、彼女は少しよたついて立ち上がった。

謝る理由もなければ、手加減する理由もないが。
・・・少々強く打ち込みすぎたか。

エステル・ブライトが1人、フィアナの元に駆け寄り
彼女を身体を支えて移動を手伝った。

・・・懸念も無くなったことだ。

さぁ。 答えを聞こうか。




(フィアナさんお疲れ様・・! 最後痛いの食らってたわよね、大丈夫?)
(はは、 ほんと、すごく痛くって)
(あああ、だよね! 『剣帝』だもんね!
 フィアナさんにすら手加減しないんだね!!)
(根底賭けちゃったんだもの、手加減なんて)

(戦う前も言ってたけど『根底』って?)
(ふふ、私達の間で時折話題に出るキーワード、かな。
 自分という人格がどうしても譲れないもの。 私達はそれを根底って呼ぶの)
(譲れないもの、)
(・・・答えが出ますよ、 レオンさん)





 
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