小説

SC F
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存在と意志証明への決意



思えば、 もう半年以上に渡る付き合いなのだ。

付き合いなんて呼べるほど濃い時間だったわけじゃない。

クーデターや事件に加担する彼に付き合ったゆえに巻き込まれもしたし、
彼の言い分に反論したことも数えるくらいはあったが、
全体的な会話を通してみれば、それ自体はなんだかんだ普通だった。

流れる時を、何ヶ月も、共に過ごしていた。

変化もあった。

彼との出会いをきっかけに、私は初めて恋という感情を抱いたし、
何より、争い事を避けていた私が弓を持ち戦う人になった。

あぁ、でも。 やり取りは案外普通だったけれど、
こうして振り返ると自分の中には変化が沢山あったんだって気付かされる。

葛藤の末に出した回答、与えられた物、 ・・出会わなかっただろう人。

なんて、良い偶然に恵まれたのだろう。



戦う理由の提示、剣先を向けるレーヴェと双剣を構えるヨシュアの対立。

身の丈に比べると少々大きな弓を、祈るように胸に抱え、
伏せられた瞼がゆっくりと開き、翡翠がその姿を覗かせる。

武器である棒を構え、彼女より数歩先に立っているエステルは
顎を引いてフィアナの様子を伺った。


「フィアナさん、行ける?」
「・・はい。 大丈夫です」


抱えていた弓を下ろし、顔を上げるフィアナ。
微笑みと同時に揺れるオレンジ色の髪に、エステルは頷く。

投げた視線の先に佇む剣帝の姿。

彼はフィアナの姿を捉えると、ふ、と短く笑みを零した。


「結局お前も来たか」
「想定通りでした?」
「全く予想していないわけではなかった・・・が、少々皮肉だな」


するとレーヴェは、フィアナが持つ弓へと視線を向けた。

それは覚悟の形だった。
彼女が口にしなければ、この世には生まれていないほどの。

フィアナは少しだけ笑みを浮かべながら彼を見据える。


「きっかけからは然程ズレてはいないと思います。
 これが私の意志、私の根底でしょう?」
「知っている」

「・・変な縁、 こんなことになるなんて、当時は思ってもみなかった」


譲れないものは、どうしても形を変えることができなかった。

理解が得られなくても、それでも構わない。
私の中で形成されていた人格は、最終的に許せなかったのだ。

存在証明。

何のために戦う。

私はこの世界が、この国が好きだった。
いや、『だった』と言うと語弊か、今もだ。

守りたいものがあったから。
より良い終幕を望んだに過ぎない。

存在証明。

回答にはさして困らない。


「・・・レオンさん、」


相手の名を静かに告げる。
紡がれるだろう続きを、口を噤んで待っている。


「改めて、貴方に武器を向けること、お許しください」


その言葉を境に彼女は左手に持っていた弓をレーヴェへと向ける。
腰に下げていた筒から矢を取り出し、右手に携えた。

翡翠色の瞳は真っ直ぐ、射抜かんばかりに見つめている。


「・・せっかく許可が得れているんです。
 己の意志と、彼女達の意向を尊重させていただきます」
「そうだな・・・ならば俺も、己の根底を賭けようか」


レーヴェはヨシュア達に向けていた剣を横に向け、
足元に魔法陣を出現させる。


「恐らく最初で最後だな、フィアナ」
「えぇ。 ・・・本当に、」


彼女の返答を聞き終えたタイミングか、止んだ魔法陣と。
レーヴェの背後に現れる中型の機械兵が2体。


「っ、呼び出した・・!」
「俺にも俺の覚悟がある。 もし、お前達の覚悟が
 俺の修羅を上回っているのなら・・・力をもって証明してみるがいい!」


舞台も役者も整った。

さぁ。 後は証明するだけだ。



(一寸の迷いもない、覚悟を堪えた鋭い瞳だった)
(・・これは、予想より手強いかもな)





 
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