小説

SC F
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異変起こる朝の理由と夢



微睡みの中、ゆっくりと瞼を持ち上げた。
窓から入ってくる朝の日差しで室内は明るい。

頬を枕に沈めて眠っていたらしい私の視界には自らの手。


「・・・?」


手には手だが何やらか違和感を感じる。
それに加え自分以外の、人の体温。

少しだけ身じろぎして、視線を変えればベッドの縁に座る人の姿。

驚いて肩がびくっ、と震える。
しかもよく知っている人だ。

何か変だと思ったら、私の手に彼の手が乗せられていたのか。

肩を震わせた際に私が起きたのを勘付いたのか、
瞑っていた彼の目が開いて、紫色の瞳がこちらを捉えた。


「起きたか」
「あっ、え・・? はい、 え?」


混乱の抜けぬ状態で返事をする。

私の手の上に乗せていたレオンさんの手がゆっくりと離れた。
頭が回らないままベッドからゆっくりと身体を起こす。

昨夜寝落ちただろう記憶はあるけれど、
レオンさんがここに残ってる理由も手が覆われてた理由も分からない。

ベッドの上に座り直す私をじっと見つめているレオンさん。


「・・?」
「夢は見たか?」
「いえ、何も」

「そうか」
「・・・?」


私の返答を聞き終えると微かに息を吐き、視線を私から外した。

いつにも増して不思議で脈絡のない問いだ。
多分こういうのを彼曰く「読めない」と呼ぶのだと思う。

寝起きで乱れた髪を指で通す。

そしてレオンさんに倣うように、ベッドから脚を下ろして隣に座った。
彼は一目私を見、また視線を戻した。


「・・・昨夜ここまで運ぶ際、服を掴まれた」
「あ、はい・・?」


ぽつりと呟くような言葉に、
今朝の経緯が語られるのかと思い頷くように相槌を打つ。


「拠点に居た時も似たことがあったが、その時は手を離して帰った」
「はい」
「翌日、お前から悲しい夢を見たと報告された」


・・そうして向けられる紫色。

彼の話には思い当たりがある。

目が覚めたらなんだか凄く悲しい気持ちで、
ふと気を抜いたら泣いてしまいそうだった。

夢の内容はほとんど覚えていなかったけれど、
ただその感情だけが、こびりつくように残っていた。

廊下で鉢合わせた彼に、挨拶も早々に「何かあったのか」と聞かれ、
一目で分かるほど浮かない顔をしていたのかと、苦笑いしながら
「なんだか凄く悲しい夢を見たみたいで」と返答した記憶がある。


「・・・だから、今日は」
「現実の行動が夢に直接作用するとは思わないが、ふと思い出してな。
 ・・たかが夢と言えど、お前を悲しませるのは本意ではなかった」


そして彼は、安堵したかのように小さく笑みを浮かべたのだ。


「夢を見なかったのなら、それでいい」





(・・もしかして昨夜から、ずっと)
(・・・)
(えっ、 す、座ったままで身体痛めてませんか?
 レオンさんこそちゃんと眠れました?)
(・・ふ。 いや、平気だ)

(そっか、なら、いいんですけど。 ・・なんでさっき一瞬笑ったんです?)
(俺が望んでしたことだから、
 お前が俺の身を案じることはないだろうと思った)
(・・んー、 そう、言われたらそうなのかも、しれないですけど・・)
(?)





 
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