小説

SC F
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伏せた事実は鋭い土産に



空から、鈍い音が響くのを聞いた。

駆けつけた先にエステルちゃん達と、
見たこともない巨大な機械の手の上に乗るレンちゃんの姿を見た。


「エステルちゃん! レンちゃん!」
「フィアナさん・・!?」
「あら、フィアナ・・・」

「も、目標を発見!」
「わわっ、何あれ!?」
「ふふっ、他の人達も起きて来たみたいね」


この時、私は初めて、ようやく、彼女が執行者であることを痛感した。

執行者の1人だと挨拶された時、あまりの幼さは正直意外だと思ったが、
彼女の端々に現れる発言や瞳は確かに結社ならではの闇を感じさせた。

だから彼女が執行者である事実を理解していたし、
自分でもそうなんだって答えを出していた。

それでも痛感したと言うのは。

このタイミングになる今まで、彼女がどれだけ抑えていたかを知ったから。

彼女が執行者相応のものをやり遂げ、
執行者相応の雰囲気を纏ったのを、初めて見てしまったからだ。

けろっとした表情でとんでもない言葉が、彼女の唇から飛び出て行く。
胸に抱えた手は行き場を無くして、ただ彼女の動向を見守っていた。


「あら、そういえば忘れ物をしたわ」
「・・忘れ物?」
「うふふ、とっても大事なことよ。 ねぇ、フィアナ?」


エステルちゃんの疑問に「忘れ物」への情報を付け加えた後、
名を呼ばれ、視線を向けられた瞬間。

一瞬、思考が止まった。

それは『察し』だ。


「まだ皆知らないの? フィアナが結社と関わりあること」
「!」
「なっ・・!?」
「フィアナ、さん・・?」


・・・あぁ、嫌な方に当たってしまった。

彼女達に伏せていたのは事実だが、執行者の口からバラされるのは、
今後に関わるから可能ならば自分の口から話したかった。

大変な置き土産だ、まるで爆弾みたい。
いや、今後を考えるとナイフなのだろうか?

動揺走る声を聞きながら目を伏せて、深く息を吐き出した。


「・・今ので完全に表立ってしまったんですけど」
「流石に頃合いじゃない?
 いくらフィアナでも最後まで伏せたままなんて居られないわ」
「うーん、それはごもっともなんですけど・・」
「? 不都合?」


彼女の返答をし、慌てもせずに否定も言葉を述べなかった私は、
傍から見れば同意そのものだ。

けろっとした表情で首を傾げるレンちゃんに、
あぁ、もうなんだ。 苦笑いしか出てこない。


「凄く不都合なんですけど・・代わりに何かフォローしてくれません?」
「フォロー・・・そうねぇ、レンみたいな手は使わない人間かしら」
「?」
「・・・?」

「・・どんなフォローですか」


肩を上げて思わず苦笑い。
どういう方向へのフォローなんだろう。

頭上に疑問符が浮かぶ面々の姿が視界の端に映る。


「あっ、フィアナの話は鵜呑みにしていいわよ♪」
「・・鵜呑み、って」
「・・・うーん」


明るい表情で追加フォローするレンちゃんに更に追加で苦笑い。
それはそれでどうなんだ。


「フィアナはレンが執行者であることを知ってたわ。
 でもね、フィアナは執行者でも兵士でも無いの、本当よ」
「んー・・・?」
「なんや、こんがらがってきたで・・」

「あっ、戦闘初心者なのも本当よ! 弱いもの!」
「あ、返す言葉が無い」
「充分フォローしたしもういいかしらねー」


1人満足気にうんうんと頷くレンちゃんに、肩を落として小さく笑った。

・・私が知る彼女はこういう子だ。
暴露は全く予定していなかったけれど。

一頻り頷いたレンちゃんは「こっちはフォローじゃないんだけど」と加え、
再度私に視線を向けた。 表情は、笑顔だ。


「たまにはこっちにも帰ってきてね?
 ふふっ、レン、フィアナの作る料理好きなの」
「光栄です。 ・・うん、そうね。 近いうちに、」
「うふふ」


彼女は満足そうに笑みを浮かべると、遊撃士達を含む、
その場に居る全員へと一瞬視線を巡らせ。

ドレスの裾をつまみ上げた。


「これ以上は本人から聞いてね。 それでは皆様・・・
 今宵はお茶会に出席していただき、まことにありがとうございました」


言い終えた後に、赤と銀と巨大機械人形はその場から浮き上がり、
方向転換して、リベールの空へと飛び去って、行った。

・・・余すほどの、鋭い置き土産を1つ残して。



(この空気で弁解やだなぁ・・・困ったな、)





 
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