小説

SC F
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始まりの朝と君と初対面



「ここからならばボースが一番近いだろう。
 向こうと合流したいなら、まずはそこに行くといい」


・・・彼は組織に属す人でありながら、
意外にもギルドに通う自分にも気にかけてくれる。

それは私だから、なのか。
彼の根から来る物かまでは察せなかったけれど。

レオンさんの助言に従い、組織の兵士さんが操縦するボートで、
ヴァレリア湖を渡ったのは、浮遊都市の出現から一夜明けた時のことだった。


2日目の朝。
光という光が無くなったあの瞬間から、一番最初に皆が見る光。

街道にある魔獣避けのオーブメントも案の定切れたらしく、
道中は魔獣が多かったように思う。

1人で街道の魔物を退けながら、どうにかボースへ。

夜と違い、太陽が昇り輪郭をはっきりと見せたそれは誰が見ても異様らしい。
喧騒に混じる困惑は、私にも確かに感じた。

人々の間を縫い、ボースマーケットのある区画へ。
もうすぐ遊撃士協会、といったところでギルドから人が出て来るのを見た。

見慣れた明るい茶色のツインテール。
彼女の側には黒髪の少年も共に居るようだった。

元気そうな彼女達の姿を見てほっとする。

歩を止めないまま協会から出てきたばかりの彼女達へと向かうと、
少年が先に私に気づき、隣に立つエステルちゃんを呼び止めた様子だった。

呼び止められ、少年が指した方向には私が。

私の姿を見るなり、ぱあっと表情を明るくさせた
エステルちゃんが、私の元へと駆け寄ってきた。


「フィアナさん! よかった、無事だったんだ・・」
「ずっと艇内に居たから。 やっぱり皆ボースに来てたんですね」


彼の予想は大正解だったわけだ。

エステルちゃんと一言声を交わす間に、彼女と一緒にギルドから出てきた
シェラさんとアガットさん、それと私に気づいた少年が彼女に追いつく。


「でもフィアナ、平然とこっちに来てるけど・・・」
「アイツらと一緒じゃなくていいのか?」

「あはは、皆の方が心配だったから来ちゃいました。 許可は得てますよ」
「許可出てんならもういいか」
「諦め始めたね?」


もう指摘するのも面倒になったと言わんばかりのアガットさんに少し笑う。

微笑んで、エステルちゃん達を見回して。
目が合った先は琥珀色。
彼は少しだけ瞬きを繰り返すと、私へと小さく頭を下げた。


「ちゃんと挨拶するのは初めて、ですね」
「ふふ、お互い存在は認識してたのにね。
 改めて初めまして、フィアナ・エグリシアと申します」
「ヨシュア・ブライトです」

「あっ、もしかしてここ2人初対面だった?」
「そうだな・・・僕が『ヨシュア』として彼女に会うのは初めてかな」
「あ、やっぱり?」


少年、もといヨシュア君の返答に1つ答え合わせがされたみたいだ。
私の発言に、ヨシュア君は小さく首を傾げる。


「私、ヨシュア君とグロリアス艇内で会ったよね?」
「1度だけ廊下で・・・気付いてたのですか?」
「ふふ。 私は居候の身だけど・・・
 私を『さん』で呼ぶ兵士さんって居ないんです」


私の言葉を聞くと、彼は口元を手で覆うように隠した。
その直後、困ったように笑った彼からは小さく「凡ミス、」と呟いて。

声を掛けるタイミングを見計らったらしいエステルちゃんが口を開く。


「ね、フィアナさん」
「はい?」
「教授達って今何してるの?」
「・・あー、えっと、どこまでならいいのかな」

「っあ。 ごめんっ、そうだった! 無理なら別に!」
「どこまでが情報なんだろうねぇ・・忙しくしてる様子、だったけどな」


ちらりと見やった先は、古代竜で天井がへこんだままのボースマーケット。
更にその奥には浮遊都市が空に1つ、佇んでいる。


・・・これが、終焉の始まりでないことを、祈るしか。



(・・フィアナさん、って)
(ヨシュア君?)
(・・・なんでもないですよ)
(え? なに、何?)


((記憶が正しいなら、これはきっと気の所為じゃない))
((なんでだろう、なんて、本人に聞いたって))





 
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