小説

SC F
11ページ/42ページ




問答繰り返す古代竜と空



高く高く、空を飛ぶ緑色の古代竜。

飛空艇以外のものでこんな高いところを飛んだことがなく、
若干戦々恐々としてる節があるのを隣に居たレオンさんに笑われた。

雲と、地上とを見比べた後、竜の上で屈んでいるレオンさんの顔を見上げた。
視線に勘付きやすいのは常らしく、特に時間も経たずに彼と目が合う。


「どうした?」
「や、えーっと・・謝りたいことが、」


そう切り出した私に、彼は表情を変えないまま瞬きを。


「実験の邪魔はしないって言ってて、今回、つい飛び出しちゃって・・」
「あの程度構いやしない」
「・・ん、 でも」
「約束は守られていた。 気に病む要素も必要も無いはずだが?」


レオンさんの言葉に、悩み数拍。
・・・本当だ、あの流れから行くと大丈夫だ。 早とちり。


「・・・言われてみればそうですね。 あ、でも関わるなって、」
「お前なら来ると見越していた。 さして問題は無い」
「な、なんで私の行動が見越されているんです」
「ふ。 言ってるだろう、お前は読めないが分かりやすいと」

「・・・それは『読み』に含まれるんじゃないんです?」
「・・いや、今回は後者だ」


レオンさんの発言に少し眉を寄せる。
意図が汲み取れない。

彼は少し面白そうに笑うと、「お前も悩むんだな」と呟いた。
この人は一体私をなんだと思ってるんでしょうかね。

まだ悩む素振りを見せる私に、レオンさんは私を見つめて。


「先程、何やら言いたげだったな」
「あ。 分かりました?」
「何を言おうとしていた?」
「計画、 執行者が各々好きな事象? を起こして、
 ゴスペルの実験をする、と私は聞いていたのですが」


紡ぐ発言に、彼は頷き1つ。
風に揺れたアッシュブロンドと、深い紫色の瞳を見上げて呟いた。


「なんで、レオンさんは古代竜を選んだのだろう、って」
「俺のは教授指定でな。 従ったが俺の意図じゃない」


一気に腑に落ちた返答に、思わず口から「あー・・」と納得の声。

成程、だからか。

・・・だから、彼はボースマーケットに行って、
ラヴェンヌに寄った上で、今、こうして。


「随分納得した様子だな」
「貴方らしくないなぁとずっと思ってて。 あの人ならやりそうです」
「フ、まぁ悪趣味だからな」

「・・そんなこと言ってていいんです?」
「構いやしないさ」


一切動じる気配の無い彼に小さく苦笑い。
・・向こうもそれでいいなら・・・いいんですけど。


「もう1つ、聞きたいことがあるんですけど」
「なんだ?」
「私を連れ出した理由を聞きたいなと。
 私が何か言いたげだったから・・それだけでは無いでしょう?」

「・・相変わらず鋭いな、敵わん」
「うーん、お褒めなのか否か」


苦く笑う私の隣で、彼は浅く息を吐き出す。

言い辛いものだったらそれでも構わないし、追求するつもりは無いけれど。
彼は一目私を視界に入れた後、更に息を吐いた。 それは溜息です?


「あの様子だと、遊撃士は古代竜と一戦交えるだろう」
「・・・まぁ、そうでしょうね」
「その場にお前は存在すべきではないと判断した」
「『約束』の範囲外、ってことですか?」

「半分と言ったところだな」
「・・・もう半分は?」
「・・・お前な」
「え」


唐突に怪訝そうな表情を見せたレオンさんに素で返してしまった「え」

あの、本気で分からないから聞いたんですけれど。
そう訴えるように首を傾げれば、今度は溜息らしい溜息が出てきた。


「・・お前は自分の事となると途端に察せない節があるな?」
「え。」
「・・・『言わせる気ではなかった』という事は理解したさ」
「あの、何の話ですか」


追いつけていない話に疑問符を飛ばす。
レオンさんは怪訝そうに深く息を吐いた後、観念したかのように口を開いた。


「・・・先程、遊撃士にフィアナを貸していると言ったが。
 元を返せばお前を預かってるのは俺だろう」
「・・・・あ、 え?」

「擦り傷やかすり傷程度ならまだしも、
 『明らかな可能性』がある場合は予防も役目であるし道理だな?」


・・・微かに開いた口が、閉じれなかった。

口から、本当に微かに溢れかけた「あ、」という呟きは、
ほとんど風に掻き消されてしまって。


「随分と驚いた様子だが。 納得はしたか」
「・・・しました、 そ、そっちか、」
「お前な、どれほど自分を軽視しているんだ」

「自分を軽視してるつもりなんて、 ・・・や、例の件が合ったので
 正直全く無いとは言い切れませんけど。 ・・寧ろ逆、」
「逆?」


疑問符を飛ばしたレオンさんに、何故か留めそうになった言葉を紡ぐ。


「もっと、軽く見られていると思っていた」





(人間性によってはとっくの昔に見捨てていたし、
 大体軽く見てたとして、今まで放っておかなかった理由が無いな)
(・・・ありがとうございます。 レオンさんって、)
(?)

(レオンさんって律儀な人ですよね。 ・・私が思ってる以上に)
(・・生憎だが、お前にだけは言われたくない言葉だな)





 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ