小説

SC F
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最終確認と確信、例えば



修理完了目前のアルセイユから仲間達の加勢。

根源区画へと送り出されるエステルちゃん達の後を追おうと
立ち上がろうとした矢先、胸元を抑え上半身を起こしたレオンさんの
「フィアナ、」と私の名を呼ぶ声に動作を止めた。


「っ、はい・・?」


呼び止められたことに少し驚きながら、レオンさんの様子を伺う。

教授から受けたダメージは思いの外大きいらしい。
初めて見る辛そうな表情で、紫色の瞳が私を捉えていた。


「・・1つ、訊いておきたい。 フィアナ・エグリシア。
 何故、お前は 俺と共にある道を選んだ」


真剣なその声に、口を噤み瞬きを数度繰り返す。
レオンさんは目線を私から外さないまま続ける。

脇ではドラギオン2体と戦闘を繰り広げる音が響いている。


「何故、自分とは違う場所であると知りながら、組織に居続けた」
「・・いつも言ってますよ。 ただ貴方の傍に居たかった、私の我儘です」


はぐらかしたとかではなく、これが本心で全てだ。
答えを聞いたレオンさんは不服そうに微かに眉を寄せる。


「ご不満ですか?」
「・・・そうではなくだな」


予想していた返答と違ったのか、
不服そうな表情が消えないレオンさんに小さく笑う。

全てなんだけどな。 なんて思いながら、続く言葉を探す。


「そうですね・・・制限は課せられていましたけれど、
 自分なりに、自分ができることをやってきたと思ってます」


私の言葉に、不服そうだった彼の表情が多少和らいだ。
こっちの方だったかもしれない、そう感じた私は更に続けた。

「お前は揺らがない」と、彼に言われた。
強い意志が私にあるならば、 それが全てだ。


「だから私、少しも後悔なんてしてません。
 貴方の傍に居たからこそ、成せたこともあった。 ・・事実でしょう?」



さらりと、長いオレンジ色の髪が雪崩れる。
肩から滑り落ちた夕陽のようなその髪に、翡翠の瞳は余りにも澄んでいで。

歪みすら見せない、歪みすらしないのだろうと思わせるような
真っ直ぐな翡翠色が、見据えていた。


――あんな人間がそう簡単に居てたまるものか

「(・・・居た、)」


簡単ではなかったが、居た。
10年経ったが此処に居る。

・・結局、俺が彼女に揺らぐことこそあれど、向きはしなかった。
きっとこれからも、そうだろうと思う。

ただ、 ・・・・・


「・・・引き止めて悪かった。 ・・行け」
「はい」
「・・・無事でな」
「・・はい、行ってきます」


彼女は優しい笑みを浮かべて、その場から立ち上がった。

揺れるオレンジ色の背を見送り、戦闘の邪魔でならないように、
ヨシュアに弾き飛ばされた剣を取りに、そこからゆっくりと起き上がる。

枷が1つ外れたからだろうか。
澄んだまでの翡翠を見たからだろうか。

視界が眩しいように感じた。





(きっとこの先も、俺がお前に向くことは無い)

(ただ、お前が後数年早く生まれていたのなら、)
(本気にしていただろう、とも思う)

(そしてこれは、恐らく最後まで本人には告げない話だ)





 
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